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その日の昼休み、言われたとうり理人は資料室へと足を運んだ。目だけを動かして周囲を見る。辺りには誰もおらず、人の気配はない。もしかして、ただ単にからかわれただけだろうか?
何処かで自分の姿を見て嘲笑っているだけかもしれない。昨日のような辱めを受けるより、その方が数倍マシだ。
だが、ドアをノックするとドアが静かに開かれ、中から顔を出したのは、以前テニス部に所属していた一年だった。
確か名前は……そう、山田だ。理人よりも背が高く体格の良い彼は、ニヤついた笑みを貼り付けてこちらを見下ろしていた。
一体なんでこんな所に? 嫌な予感がした瞬間、腕を掴まれ強引に室内に引き摺り込まれる。
そして、勢いよく背後の扉が閉められた。
「っ、な………っ!」
何が起きたかわからないままいきなり押し倒されて、動けないように圧し掛かられた。
「へへっ、マジで来やがった」
何が起こっているのか理解できないながらも、身体を這いまわる男の湿った手が気色悪くて、ぎろりと睨み付けて抵抗した。
「山田てめぇ……いきなり何しやがる!?」
「あれ? 覚えてくれてたんっすか先輩。いやぁ、先輩って、御堂会長にヤらせたんでしょう? だったら俺にもヤラせてくださいよ」
至近距離で顏に掛かる荒い鼻息が生々しくて気持ちが悪い。無理やりキスして来ようとする顔を押しのけようとするが、強い力で抑え込まれてビクともしない。
「こんの、馬鹿力がっ! 離せ、クソ野郎っ!」
何とか逃げ出そうと暴れるが、山田の力は強く、理人が全力で抗っても押さえつける力は弱まらなかった。
それどころか、男は面白半分に理人の制服を脱がそうとし始めた。
アイツだけじゃなく、この男にまで犯されるのか? ――冗談じゃない!
必死に手足をバタつかせて逃れようともがくが、圧倒的な力の差にどうすることもできなかった。
「往生際が悪いなぁ。大人しくしてれば優しくしますって」
「ざけんな、死ね、変態野郎が……ッ」
「ははは、相変わらず口が悪い。けど、今主導権を握ってんのはアンタじゃないんっすよ」
そう言って笑うと、男は舌なめずりをしながら首筋をべろりと舐められた。
おぞましい舌の感触にゾッと全身に鳥肌が立ち、嫌悪感に吐き気が込み上げてくる。
「ひっ……、嫌だ、やめろ!」
「止めろって言われたら、余計やりたくなるんだよなぁ」
「ふざけ……、ぅぐっ!」
再び唇を奪われて、無理矢理口をこじ開けられそうになった。ぬるりと侵入してきた分厚い舌に歯を立てて噛みついてやる。
さすがに痛かったのだろう。一瞬怯んだ隙を突いて、理人は渾身の力で山田を突き飛ばした。
「いっ……てえええええええ!!!!!」
ゴキンと鈍い音が響いて、男が悲鳴を上げた。
「……付き合ってられるか。クソが!」
のたうち回る山田に近づき、遠慮のない力でわき腹を蹴りつける。
「誰がてめぇなんかにヤられるかよ。汚らしい」
「ヒッ、ちょっ、や、やだなぁほんの冗談じゃないっすか……」
「五月蠅い黙れ」
わき腹を蹴られ苦しそうにのたうち回る男の胸を理人が足で抑えつけ動きを封じた。
「俺は今、虫の居所が悪いんだよ。不意打ちはもう食わねぇ……。誰にでもホイホイ抱かれると思ったら大間違いなんだよゴミ虫が」
ギリッと踏みにじると、山田がぎゃぁっと叫び声をあげ気を失った。
「はいはーい。そこまで、たく……派手にやってくれたな」
何時の間に後ろにいたのだろうか、羽交い絞めにされて振り向くと、そこには蓮の姿があった。
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