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act.3
「――はぁ」
憂鬱な気分でフラフラとあてもなく歩いていると、以前雨宿りしていた公園に出た。昼間は子供たちで賑わっているであろう公園も、今はひっそりと静まり返っている。
纏わりつく様な蒸し暑さに顔を歪めながらベンチに腰を下ろし、ペットボトルを開けるとコーラを一気に口に含んだ。きつい炭酸が鼻について目尻に涙がじわりと浮かぶ。
信じられなかった。嫌で嫌で堪らない相手だったはずなのに、自分から浅ましく強請るように求めてしまった。
あんなのは自分じゃない。そう、思うのに白濁にまみれてはしたなく喘ぐ自分の姿がありありと脳裏に浮かんできて思わず頭を抱えた。
もう、薬のせいだなんて言い訳はきかない。おもちゃで嬲られながら、蓮の視線に晒されて、確かに興奮してしまっていたのだ。
認めたくなくて、必死に否定しようとしたけれど結局できなかった。忸怩たる思いが胸を満たし、悔しくて涙が滲んだ。
どうしてこんな事になってしまったのか。一体何がいけなかったというのか。
自問しても答えは出ず、悔しくて情けなくて色々な感情が混じりあって嗚咽交じりの溜息が出た。
こんな風に泣きたくなんかないのに……。
頬を伝う雫を乱暴に拭い空を見上げると星一つ見えない曇天が広がっていた。まるで今の自分の心境を表しているかのような夜空に苦笑しながらペットボトルに残ったコーラを軽く揺する。まだ少ししか飲んでいないソレはずしりと重い。
「……またお兄さん、泣いてるの?」
突然頭上に影が差し、幼い声が降ってきた。いつの間にやって来たのだろうか、この間会った秀一が心配そうに顔を覗き込んで来る。
「お前……」
「大丈夫? どこか痛いの?」
「別に平気だ。……それに、泣いてねぇし」
理人はふいっと目を逸らすとぶっきらぼうに言い放ち、目元を腕でごしごしと擦って誤魔化した。
「お兄さんは嘘つきだね」
それだけ言うと、突然ふわりと抱き込まれた。
「なっ!? お、おいっ」
驚いて身引こうとするより早く秀一が口を開く。
「大丈夫だよ。此処には僕たちしかいないから。……泣きたいときは、我慢しちゃ駄目だって姉さんがいつも言ってる」
いつも彼はそうしてもらっているのだろうか。そろそろと背中を撫でる手の平は優しくて胸に熱いものが込み上げてくる。
「泣きたい時に泣けないと、心が壊れちゃうんだって。大丈夫、誰にも言わないから……」
そう言って、小さな手が理人の背中をポンポンとあやす様に撫でる。人前では泣きたくなんて無いのに、今優しくされたら堪え切れなくなってしまう。
理人は唇を噛みしめて俯くと、静かに肩を震わせた。
感情のコントロールが効かなくなって大粒の涙がぽろぽろと溢れだした。こんな惨めな姿誰にも見られたくないのに。
「っ、ふ……クソ……っ」
ずっと抑え込んでいた想いが堰を切ったように溢れ出す。次から次に込み上げてくる思いをどうすることも出来ず、秀一の肩口に目を押し付けて静かに涙を流し続けた。
その間、彼は何も言わずにただ黙ったまま背中をさすってくれた。
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