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どれくらいの間、二人でそこに居ただろう。
ようやく涙が止まる頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
子供相手にみっともない姿を見せてしまった事が恥ずかしくなって慌てて身体を離すと、バツの悪さをごまかすように小さく咳払いをする。
「……悪い」
「大丈夫だよ」
そう言って、理人の隣にやって来ると秀一はちょこんとベンチに腰を下ろした。独特の雰囲気がある子供だ。小学生にしては妙に大人びていると言うか既に人生を何周か経験しているかのような不思議な貫禄のようなものがある。自分が同じ年の頃はやんちゃ盛りで、こんなに落ち着いてはいなかったはずだ。
理人がじっと見つめていることに気付いたのか、秀一はこちらに向き直るとにっこりと微笑んで言った。
「なんかお兄さんってさ、うちの近所にいるボスに似てる」
「は?」
突拍子も無い発言に思わず間の抜けた声が出る。ボスってなんだ。コイツ、小学生のフリしてるけど実はヤクザかマフィアの仲間だったりするのか? 一瞬混乱するがすぐに違うと思い直す。いやいや、そんなわけないだろう。自分自身に思わず心の中でツッコミを入れる。何を馬鹿な事を考えているんだ俺は。
「ボスって言うのは、野良猫なんだけど……、普段は近づくなオーラ発して嚇してくるのに、本当に弱った時とお腹すいた時だけ甘えて来るんだ」
「なんだ、猫かよ。って……オイ、喧嘩売ってんのか?」
思わず凄んでしまい、しまったと思った。小学生相手に何をしているんだろう。
だが秀一は特に気にした様子も無く困ったように首を振った。
「まさか。……そうだ、お兄さんにも今度会わせてあげるよ」
「いや、別に俺は……」
「いいから、約束。ね?」
「……」
何とも強引な子供だ。有無を言わさず手を握られ小指が絡む。そして、戸惑う理人に構わず指切りすると満足そうに立ち上がった。
「じゃぁ、またね!」
「あっ、おいっ!」
手を振って走っていく秀一の先には先日と同じようにお姉さんらしき人物が立っていた。
公園を去る間際に手を振られ、理人は大きく息を吐くと、躊躇いがちに手を振り返す。
全く変なガキだ。だけど不思議と嫌ではなかった。
彼の言葉に、笑顔に救われた気がする。
「――約束、か……って、時間も日にちもわかんねぇのに約束って……」
一人になった公園で、理人は呆れたような表情を浮かべながらも僅かに頬を緩めた。
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