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3-3
「へい、先輩行きますよ!」
スパーンという小気味いい音と共に、コートの向こうから球が飛んでくる。
「っ、あ……っ」
何時もなら難なく打ち返せるはずの球だが、一歩出遅れた。かろうじてラケットに当たるもののネットを超えることなく理人はがくりと膝をついた。
「ほらほら、どうしたんっすか? 部長~。しっかりしてくださいよ」
山田のニヤついた顔が憎らしいが言い返せない。理人は荒くなった呼吸を整えようと大きく深呼吸をした。
ここは学校近くにある市民体育館のテニスコート。珍しく蓮が資料室以外の場所に呼び出したと思ったら、ラケットを持った山田が待ち構えていた。
普通の試合なら、こんな雑魚相手にミスをするなんてあり得ない。少し動いただけで尋常じゃない程の汗が吹き出し、息が上がる。
いまが夏休み中で良かった。部活でこんな無様な姿は見せられない。
視界の端では、蓮がにやにやと笑いながら試合の様子を眺めているのがはっきりと見えた。その手には小さなリモコンが握られていて、理人はぎりっと血が滲むほど唇を噛みしめる。
屈辱的な事に、今、理人の尻にはリモコン式の小さなローターが入れられている。
蓮と山田が揃っている時点で嫌な予感はしていたが、ローターを挿入したまま試合をするだなんて馬鹿げている。勿論、理人にそんな特殊な趣味はない。
山田との対決の間、そのおもちゃを尻に入れろと言ってきたのだ。
従わないと、今まで撮りためている映像や写真を学校中にばら撒くぞと脅され、渋々従う羽目になってしまった。
勿論、色々な抵抗を試みては見たものの、結局最後には屈するしか無かった。
それに、この程度のハンデで負けるような奴だと舐められてたまるかという思いもあった。
「もう、降参っすか? 俺に勝てたら、会長から解放されるってご褒美付きなのに」
「く……っ、誰が……降参なんかするか……っ」
こんな下衆になんか、負けたくない。勝て……ば、解放される……でも……。
こんなものを付けてから試合だなんて、無理だ。そう思うのに、一度動き出した試合は止められない。
ボールを打ち返した瞬間、振動が強くなった。ひゅっ、と喉が鳴る。
だめだ、集中しないと。崩れそうになった膝を何とか支え、ラケットを強く握りなおして気合いを入れなおした。こんな玩具に、屈するものか。
そう思うのに、腰の奥が熱く疼いて上手く動けない。
「ふはっ、さっすが部長。強気っすね、ほらほらどんどん行きますよ」
「……っ」
打ち合ったら駄目だ。相手の自滅を待っている余裕なんて今の自分にはない。
唯一勝てるとしたら、とにかく初手のレシーブでありったけの全力をコートに……。
打ち返す寸前、体内に埋め込まれたそれがいきなり激しく震え始めた。
「はぅ……っ」
ぐちゅり、と濡れた音が響く。
不意をつかれたせいで、構える暇もなく理人の身体がビクンと跳ね上がった。
「はい、残念~」
勢いを失ったボールは相手コートに向かったものの簡単に打ち返され、そのまま力が抜けてコートにへたり込む。
「……面白いか?」
「当然っすよ。いっつも偉そうに威張ってる先輩が、こんな下手くそプレイかますんだから、笑いが止まんねぇって」
蓮の問いに、山田はゲラゲラと笑った。
くっ、と歯を食いしばりながら視線を向けると、奴が楽しそうに口元を歪めながらこちらを見下ろしてくる。
「ほらほら、エースの意地見せて下さいよ、部長」
そう言って、理人に向かって再びサーブが打たれる。
駄目だ、打てない。そう思った瞬間、ローターの振動が更に強くなって足ががくがくと震えだす。
「は……っ、く、んっ……」
堪えようとしても抑えきれない疼きに、腰が微かに震えてしまう。目の前が真っ白になって、全身が痙攣するように戦慄いた。理人の意思に反して、体内のそれは休む間もなく暴れまわり、容赦なく前立腺を刺激し続ける。
駄目、耐え切れない。このままだと―――。
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