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3-4
理性とは裏腹に、快楽を求める本能に突き動かされた身体は、勝手に絶頂へと駆け上っていく。こんな場所で、こんな状況で、自分は一体何を考えているのだろう。必死に頭では否定しようとするのに、気持ちとは裏腹に欲望は高まるばかりで抑えがきかない。
駄目だ、イってしまう。こんな奴らの前で……。悔しいのに、恥ずかしいのに、我慢できそうにない。
がくりと膝が折れて、身体を支えきれずその場にしゃがみこんだ。
「あぅ……っ」
びくんと背筋が伸び上がり太腿がぶるりと震えた。
「へへっ、勝負は俺の勝ちってね。つか、すげーエロい顔……」
ゆっくりと卑下た笑いを浮かべながら、山田が近づいて来て顎をグイッと持ち上げられる。
理人は潤んだ瞳でキッと睨みつけるが、効果は薄く逆に相手を興奮させてしまったようだった。
「いいね、その態度。無茶苦茶に犯してやりたくなる」
耳元で囁かれ、ゾクリと肌が粟立つ。
こいつはいつもそうだ。弱いくせに今は自分の優位を確信しているからこそ、理人のようなプライドの高い人間を甚振る事を楽しんでいる。
抵抗したいのに、今の状態では力ずくで押し倒されてしまえば為す術がない。この状態で襲われればひとたまりもない事は明白だ。
恐怖に顔を青ざめさせる理人を嘲笑うかのように、山田の手がシャツの中に入り込んでくる。
だが、次の瞬間――。
「……おい。誰が勝手に触っていいつったよ」
地を這うような低い声が聞こえたかと思うと、ドカッという鈍い音と共に突然横殴りの衝撃を受けた男が吹っ飛んだ。
何が起きたのかわからないまま、唖然としていると、いつの間にか蓮がすぐ傍までやって来ていた。
「痛ってぇ……。ちょ、なんでですか!? いつもならこれくらい許してくれるじゃないっすか! 二人でマワすんじゃ……」
「うるさい」
蓮に殴られたらしい山田が涙目で抗議の声を上げるが、ピシャリと一蹴されてしまう。
そして、理人の前にしゃがみこむと真っ黒な双眸がじっと見つめてきた。
「……コイツは俺のモンだ。指一本でも触れたらその腕へし折るよ?」
「な……っ」
理人を抱きしめるようにして拘束すると、氷のように冷たい声がそう告げる。
「お前のくだらない茶番に付き合ってやったんだ。これ以上は好きにさせない」
「……納得出来ねぇ。なんでコイツは駄目なんですか!? 俺にもヤらせて下さいよ!」
「は? パシリがふざけてんの? それとも、聞こえなかったのか?」
「ひっ……」
蓮が鋭い視線で山田を睨むと、山田は情けない悲鳴を上げて後ずさった。
「二度は言わない。コイツに手を出したら……わかってるだろうな?」
「……くそっ!」
蓮の迫力に圧されたらしく、山田は悪態をつくと逃げるようにその場を走り去って行った。
残された理人は呆気にとられながらも、ハッとして慌てて蓮の腕を振り払う。
「……おい、誰がいつ、お前のモンになったよクソがっ!」
「フン、威勢がいいな……。此処、こんなにしてるくせに。それとも、二人がかりで犯されるの期待してた?」
「なっ、ちが……っ誰が!」
揶揄するような声と共に蓮が喉の奥で笑うと、軽く理人の股間を撫で上げてくる。限界まで張り詰めていたソコは触れただけで反応してしまい、慌てて足を閉じて隠しそうとした。
「嘘つき。本当は欲しくて堪らないくせに」
「そんなことない……っんぁあ!」
咄嵯に叫んだ瞬間、体内に埋め込まれたものが再び動き出した。しかも今度はバイブ機能ではなく振動の強さは最大のままだ。急に与えられた強すぎる刺激に耐え切れず、太腿がビクビクと戦慄いた。
「じゃぁ、コレはなんだ? まだ何もしていないのに、直ぐにでもイきそうじゃないか」
「五月蠅いっ、これは……っ、お前が無理やり挿れたローターのせいだろうがっ」
そう言いながら、理人は蓮を睨みつけ、股間をいやらしく撫でる手を掴んで払いのけようとした。
しかし、力が入らず上手くいかない。むしろ、余計に身体が疼いて辛かった。そんな理人の様子を見て、蓮は楽しげに口角を吊り上げる。
「強がるなよ。気持ちよかったんだろう? パンツの中ぬるぬるじゃないか。こんな、誰が見ているかもわからないコートの中で感じまくって……見られて感じるなんてとんだ変態だね、君は」
いきなりハーフパンツの中に手を入れられ、布越しに鈴口を指の腹で押されて、理人は激しく首を振った。
違う、こんな所で……こんな奴にイカされたくないのに……。必死になって抵抗を試みるも虚しいだけだった。蓮の長い指先が下着越しに性器に触れるたび、腰がびくついて止まらない。
先走りのせいで布地は既にぐしょ濡れになっており、先端部分を擦られる度に腰が抜けるような快感が走る。
「ははっ、いやらしいね。腰くねらせて……誘ってるの?」
「ち、違っ」
口でいくら否定しても、身体は正直だ。触れられた場所が熱くて堪らなくて、もっと欲しいと無意識のうちに浅ましく腰を動かしてしまう。
「……此処でイカせてやってもいいけど……流石にここじゃまずいか……」
すぐ側に人の気配を感じて、蓮はチッと舌打ちをすると理人の両脇を抱えて引き立たせた。
ガクガクと足が震えてまともに歩けない状態で、身体を支えながら歩く姿は、周囲には蓮が熱中症か何かで具合が悪くなった理人を介抱しているように見えたようだ。
誰も不審には思わなかったようで、すれ違う人は皆一様に心配そうな表情を浮かべてこちらを見つめている。
誰も声を掛けて来なかったことだけが不幸中の幸いと言ったところだろうか。
理人は羞恥心でどうにかなりそうだったが、この場から逃げ出すことも出来ずにただ俯き唇を噛みしめるしかなかった。
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