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熱っぽく潤んだ瞳に見つめられ、身体の奥が熱くなる。 「たく、人のケツに擦り付けてんじゃねぇよ。とっとと寝ろ」  透が何か言うより早く、理人はベッドを降りた。  そして、元々透が寝る予定で敷いた布団に潜り込む。 「えっ、あ……っ理人……っ」  動揺して狼狽える透の声が聞こえるが無視して背を向ける。 「あの……ごめん。怒った?」 「はぁ。あのな、そう言う事に興味を持つのはまぁ、年頃だし仕方ねぇけど……あり得ねぇから」 「……うん、でも……お風呂での理人思い出したら、凄く変な気分になっちゃって」 「思い出すな馬鹿っ! と、とにかく! 透にはまだ早すぎる。 ムラムラすんなら一人でトイレにでも行ってヌイて来い」  シッシッと手で追い払うような仕草をすると、ギシリとベッドが軋む音がした。背後に透の視線を感じるが敢えて気付かない振りをする。 「昼間のヤツ、もうしてくれないの?」 「……っ、するかッ」  思いがけない質問に思わず振り返ると、透は捨てられた子犬のような目でじっとこちらを見つめていた。  そんな目で見るな。まるで自分が酷い事をしたみたいじゃないか。  何とも言えない罪悪感が込み上げてきて、思わず目を逸らす。確かに、さっきは調子に乗って色々とやりすぎた感は否めない。 「……オレ、初めての相手は、理人がいい」 「――っ」  ハッキリとした声が背後から響いて来て一瞬、息が止まりそうになった。ざわつく心を落ち着かせる為に深呼吸を一つすると理人は透に向き直る。そして――。 「ばーか。何言ってんだエロガキ!」  ピンっと指を弾き渾身のデコピンをお見舞いしてやった。 「いったぁ……。ちょっと、酷くない!?」 「目ぇ覚ませアホッ。そう言う事は好きな奴の為に取っとけよ。手近で済まそうとすんな!」 「……昼間オレのを咥えてたくせに……アレ、凄かったんだけど」 「あ、あれは魔がさしたと言うか……とにかく、ダメなもんは駄目だ。くだらねぇ事言ってねぇでとっとと寝ろほらっ!」  グイッと肩を押してベッドに寝かせ半ば強引にタオルケットを被せてポンポンと肩をそっと撫でてやる。 「オレは理人の事好きだよ?」 「あーハイハイ。けど無理だから。何も慌てて今捨てなくてもいいだろ……。透には、俺みたいに間違って欲しくねぇんだ……」 「え、なに……?」  元々口下手な性格もあってうまく思いを表現することが出来ないが、それでも何とか伝えようとする。  まだ間に合うはずだ。透は、これからもっと色々な経験をして大人になる。 その時、自分の存在が足を引っ張るような事だけは絶対に避けたかった。  ――透には自分みたいに道を踏み外してほしくない。 「透には普通に恋愛して、可愛い彼女作って欲しいんだ。お前の人生の汚点にはなりたくないんだよ」  切実な思いを込めて放った言葉に、返答はなかった。何と答えていいのかわからなかったのかもしれない。  でも、それでいい……。自分が今いるところは、透のような真っ白で純粋な子供がハマっていい場所ではない。   出来る事なら、透には普通の人生を歩んでもらいたい。それが自分のエゴだとわかっていても、理人はそう願わずにはいられなかった。

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