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あぁ、太陽が眩しい。 あれから数日が経とうとしているのに、未だにふわふわとした高揚感に包まれている。
今まで部活以外で誰かと出かける事なんて無かったから、なんだか不思議な気分だった。
「なんだかご機嫌だね、リヒト君」
部活終了後、コート整備を終え、コート裏に戻って荷物を整理していると、練習を見学に来ていたケンジが声を掛けて来た。
そんなに、わかりやすく顔に出ていたのだろうか?
「……別に。何でもねぇ」
何となく気恥ずかしくなり、つい、ぶっきらぼうな言い方になってしまった。
普段あまり感情を表に出さない理人がふいっとそっぽを向いて、そんな反応を示すものだから、ケンジは余計に気になったのだろう。
ニヤニヤしながら、肘でツンツンと突いてくる。
「何々? 彼女とデートとか?」
「は? そんなんじゃねぇよ! ……つか、彼女なんていねぇし」
「またまた~。彼女じゃないなら彼氏、とか?」
「違うっつってんだろ! ……近所のガキと今度の日曜に出掛けるだけだ」
あまりにしつこく訊いて来るので、渋々と答える。
すると、それまでヘラヘラしていたケンジの表情が急に真剣なものに変わった。
「え……リヒト君ってショタ好きだったの!?」
「あ?」
突拍子もない事を言われて、思わず眉間に深い皺が寄った。誰がショタコンだ、誰が!
コイツは一体、自分をどんな目で見てるんだ。人を好きになった事なんて無いからよくわからないが、少なくとも少年を愛でる性癖は自分にはない。
理人の表情が険しくなった事に気付いたのか、ケンジは乾いた笑みを浮かべ頬を掻いた。
「あはは、やだなぁそんなに睨まないでよ。なんでそんな話になってんのかわからないけど、何処に行くのか聞いてもいい?」
「……動物園だ」
言った瞬間、ケンジの笑顔が固まった。
「リヒト君が、子供と一緒に動物園……? ……パパさんの身代わり的な?」
「あー、まぁそんなところだ」
ケンジがどんな幼い子供をイメージしているのかはわからないが、段々答えるのが面倒になって適当に相槌を打った。
不躾に上から下までくまなく見つめられ、何だか居心地が悪い。
「……ふぅん、リヒト君が動物園……」
「似合わねぇって思ってるだろお前」
「えっ!? や、そんな事思ってないよ!?」
図星を刺されたのか、ケンジの声がひっくり返って首をぶんぶん降って否定する。
「いいんだよ、別に……。自分でも似合わねぇなと思ってるし。でも、アイツが行きたいつーから……」
「……よっぽど大事な子なんだね」
「大事っつーか、ほっとけねぇっつーか。名前しか知らねぇガキなんだけど、アイツ見てるとなんだか昔の自分と重なって放っておけないんだ」
「ふぅん……そっか。前から思ってたんだけど……優しいよね、リヒト君は」
「はぁっ!?」
あまりにも意外な一言を言われ、思わず素っ頓狂な声が洩れた。
自分が優しいなんて思ったことは一度もない。
今まで人相が悪いだの、怖そうだのと悪いイメージばかり持たれてきたのだ。
優しくしてやった覚えなどないし、秀一の件に関してもただ彼の願いを叶えることで昔の小さく丸くなっていた自分が暗闇から救って貰えるようなそんな気がしただけだ。
「そんなに驚くことじゃ無いと思うんだけどな。あ、そうだ……。ねぇ、その日僕も一緒に行ってもいい?」
「あ?」
「丁度、動物園で推しのイベントがやってて行きたいなぁって思ってたんだよ。でも、一人で行くのは敷居が高くって。それに、リヒト君とデートする子、見てみたいし」
「だから、デートじゃねぇっつーの」
どいつもこいつもデート、デートって……相手は小学生だし、そもそも、男同士だ。そんな色っぽいもんでもないだろう。
大体、そんなに言うほど自分はモテるわけでもなければ、女に興味があるわけでもない。
どちらかというと、自分の興味の対象は……。そう言えばアイツから今日は一度も連絡が来ていない。
今までだったら、用事がなくてもしょっちゅうメールなり電話なりかかってきていたのに。
そこまで考えて、ハッとする。
何を考えているんだ自分は。これではまるで……あいつの事を意識してしまっているみたいじゃないか! 慌てて頭を振ると、ブンッと風を切る音がした。
「……やっぱダメ?」
ハッとして我に返る。不安そうに眉を寄せ、上目遣いに此方を見つめているケンジがいた。
「……詳しい話はまたメールする。じゃぁ、俺は着替えて来るから」
理人はそう呟くと、逃げるように足早に部室へと向かって行った。
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