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日曜日は生憎の薄曇り。雨が降る予報では無かったが何処かどんよりとしてスッキリしない空模様に理人はひっそりと息を吐いた。
約束の時間まではあと10分ほどある。少し気合を入れ過ぎただろうか?
「あ! リヒト君おはよう!」
公園のベンチに座ってぼんやりとしていると、全体的にふんわりとした洋服を着たケンジが嬉しそうに駆け寄って来た。
ただでさえ中性的な容姿が、服装のせいか今日は一段と可愛らしく見える。背の高い女の子と言われても違和感がない程だった。
「……おう」
「あれ? 噂の小学生は?」
「いや、まだだ……」
「ふぅん、どんな子なんだろう。その子、可愛い?」
「あ? 可愛いと言うより……整った綺麗な面してるから、アレは大人になったらきっとモテるぞ」
「へぇ~。そうなんだ」
そんな会話をしていると、公園の入り口からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。スラリとした長身に、彫りの深い顔立ち。お人形さんみたいなぱっちりとした目元。野暮ったくひっ詰めて髪を結び、眼鏡を掛けてはいるが一目で美人だとわかる。
年の頃は理人たちと同じか少し下くらいだろうか? 理人はその人物に見覚えがあった。恐らく、記憶が間違っていなければ彼女は秀一の姉だろう。
目が合うと、少女は真っすぐに理人たちの方に近づいて来る。だがしかし、その周囲に秀一の姿は無かった。
「貴方が秀一を誑かしてるお兄さん?」
「あ?」
開口一番に告げられた言葉に、理人の眉間のシワが深くなる。
何だコイツ。いきなり喧嘩売って来てんじゃねぇか。
「秀一をどうするつもりか知らないけど、アンタみたいな人に秀一は渡さないから!」
秀一の姉は、腰に手を当てて胸を張るとビシッと理人を指さす。
何だこの姉ちゃん。初対面で随分と失礼な態度だ。
しかも、意味の分からない事を言っている。
まるで理人が秀一を誘拐しようとしているかのような態度に、思わずムカッと
してしまった。
一体どういう育てられ方をしたらこんな性格になるのだろうか。
でもまぁ、ごく一般的な考え方をすれば見ず知らずの高校生が小学生を連れて出かけると言うのは、流石に怪しいと感じるかもしれない。
男が小学生を攫って悪戯をすると言った事件もここ数年で多発しているし、警戒するのもわからないでもない。
ただ自分は秀一を喜ばせてやりたかっただけなのだが。
「秀一に話をちゃんと聞いたのか?」
「聞いたわよ。名前も知らないお兄さんと一緒に動物園に行くって」
「……」
「リヒト君、名前、教えて無かったの?」
ケンジにこっそりと問われ、名乗っていなかった事実に愕然とする。確かに、名前を言っていないのだから怪しまれるのも仕方ない。
「ま、そう言う事だから。帰って! そして秀一に二度と近づかないで!」
「な……っ!?」
フンッと鼻を鳴らし捨て台詞を吐いて去っていく彼女の後ろ姿を呆気に取られながら見送る。
「何だあのクソアマ……」
「リ、リヒト君、聞こえちゃうよ」
思わず口から出た悪態に、ケンジが慌てて耳打ちしてくる。
「……悪い。ムカついてつい……」
取り付く島もないとはこういうことを言うんだろう。
別に、秀一に悪戯をしたいとかそんなやましい気持ちは一切ない。
寧ろ彼女からは、秀一を何があっても守らなければと言う執念のようなものが感じられた。
でも、だからって本人の意思を無視して勝手に決めるなんて横暴すぎる。
「ねぇ、これからどうする?」
「……取り合えず、あの女のあとを付けて、アイツの家に行ってみる」
秀一に会わせてくれるのかはわからないが、このまま引き下がるなんて出来なかった。
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