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JRに乗り、目的地まで揺られること数十分  休日の昼間ということもあってか車内はそこそこ混んではいたが、席は全て埋まっていると言うほどではなかった。一人分しか席の空きが無かった為ケンジを座らせて理人はその近くで吊り革を掴む。 「そういや、気になってたんだがその荷物はなんだ? 随分と多くないか?」 「あぁ、これ? 実は僕、お弁当作って来たんだ」 「弁当って……遠足かよ」 「えー、でも……せっかくの動物園だし。変だったかな?」  ケンジが不安そうに眉尻を下げる。 「別に変じゃねぇよ。ただちょっと意外だっただけだ」 「僕、料理作るのが好きなんだ。すっごいお洒落なのとかはまだ無理なんだけど」  きっと本当に好きなのだろう。リュックを大事そうに抱えてはにかむ姿に思わず口元が緩んだ。 「それは食うのが楽しみだな」  頭をくしゃくしゃっと撫でてやると、嬉しそうに笑いながらうんと大きく首を縦に振った。  ケンジを見ていると、荒んでいた心が洗われるようで不思議と気分が和んだ。  ◆  電車を降りると駅の改札を抜け、そのまま歩いて動物園を目指す。  動物園の最寄駅なので駅からすぐのはずだが、辺りは住宅ばかりであまりお店などは無く、コンビニが一件あるだけだった。この辺りは昔ながらの商店街のような雰囲気がある。  暫く歩くとようやくそれらしい建物が視界に入って来た。  入口のゲートでチケットを購入し園内に入ると、園内は夏休み中という事もあり小さな子供連れの親子で賑わっていた。 「あ! ねぇ見て、ペンギンがいるよ!」  入り口付近に居た看板の前で飼育員のお姉さんに餌付けされているペンギンを見つけて、ケンジが歓声を上げる。 「あ、あっちにはシロクマも。凄いなぁ、おっきな氷に噛り付いてる」  やや興奮気味に、目を輝かせながらあちこちを見て回る。  高校生にもなって動物園なんてと思ったが、こんなに嬉しそうにはしゃがれると悪い気はしない。 「ねぇ、クロヒョウだって! リヒト君そっくり!」 「あ? 何処がだよ……」  グイグイと腕を引かれて連れて行かれた先に居たのは、全身真っ黒な猫科の動物。  悠々と檻の中を歩いている姿はしなやかで美しい。だが目が合うと明らかにフンと鼻を鳴らしてそっぽを向かれた。  全く、なんつー態度だ。 「おい、俺はあそこまで愛想無じゃないぞ」 「えぇ、見るとこそこじゃ無くない?」  不満そうな顔をする理人に、思わずケンジが突っ込む。こう言うやり取りはなんだか新鮮で少しだけ楽しい。  この場に秀一が居たらどうなっていただろう? ケンジと二人ではしゃぎまわる姿が何となく想像出来てしまい複雑な思いが込み上げてくる。  やはり今日一緒に連れて来てやりたかった。 「……リヒト君? 大丈夫? ごめんね僕ばっかりはしゃいじゃって」 「ん? あぁ、平気だ。問題ない」  どうも無意識に顔に出てしまっていたようだ。慌てて表情を取り繕ったが、 それでもまだケンジは心配そうにこちらを伺っている。 「そういや、お前、観たいものがあるんだろ? いいのか、寄らなくて」  折角楽しんでいるのに水を差すような真似はしたくなかったので、理人は敢えて話題を変えることにした。

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