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「あ、うん……そうだね。まだショーまでは少し時間があるんだけど、いこっか」  チラリと時計を見て、ケンジはほんの一瞬申し訳ないような表情をしたが、直ぐに切り替えたのかはにかんだような笑顔を理人に向けた。  ショーがあると言う広場に近づくにつれて、小さい子供を連れた若い女性が徐々に増えていく。  園内の至る所で見掛けた看板には、よくあるヒーローショーの案内が書かれていた。  理人も幼稚園の頃くらいまではガッツリハマって放送を見ていたものだが、自分の両親はヒーローショーなんて連れて来てくれたことは一度も無かった。  まさか高校生になって、こうして見に来ることになるとは思わなかったが……。  苦笑しつつ、ちょうど真ん中あたりの席が空いていたので、そこに腰掛ける。右を見ても左を見ても、周囲に居るのは小さな子供達とその保護者ばかりだ。理人たちのように友人同士でこの場にいる者は他にいないようだった。 「ごめんね、付き合わせちゃって」 「別にそれは構わない。で? ケンジは何色が好みなんだ?」 「えっ、僕? 僕は――……」  ケンジが言いかけたところで、突然照明が落ちて周囲が暗くなり、ステージ上にスポットライトが当たる。  そして、マイク越しにナレーションが流れ始めた。  《さぁて、皆様大変長らくお待たせいたしました。これより、今世紀最大に熱い戦いが始まる!!》  司会の男が声高らかに宣言すると、客席からは割れんばかりの拍手と歓声が上がった。  同時に会場全体が明るくなりステージ上には早速悪役と思われる被り物を被った怪人たちが姿を現した。  彼らはステージ上で手に武器を持って暴れまわり、周囲の子供たちからはヒーローを呼ぶ声が上がり、その声に応えるような形で5色のカラフルなスーツを身に纏ったヒーローたちが颯爽と登場した。  さすが子供向けの番組。登場の仕方からして派手な演出だ。  お約束の流れとは言え、小さな子供たちは目を輝かせてその雄姿を眺めている。  チラリと隣に視線を向ければ、ケンジもまた目をキラキラさせて食い入るように舞台上の光景を凝視しており、その姿に理人はフッと笑みを浮かべた。 「……っ、わ、レッドがこっち見た……っ」  気のせいだろう、と思ったが確かに舞台上に居るレッドは敵ではなく、此方を見て完全に動きを止めていた。  マスクを被っているために表情までは見えないが、まるで何故いるんだと言わんばかりの視線を感じる。  そのせいで、敵役の攻撃を躱すのが少し遅れてしまったようだ。周囲からも小さな悲鳴が聞こえてくる。しかしそこは歴戦の戦士。間一髪の所で攻撃を避け、そのまま敵の顔面に飛び蹴りを食らわせ、その後は危なげもなく敵をバッタバッタと倒していく。 「びっくりした。すっごいドキドキしちゃったよ。凄い演出だったね」 「……」  本当にアレは演出だったのだろうか? 理由はわからないが、自分たちの姿を認めて驚いて思考停止に陥っていたようにも見えた。  そんな事を考えつつ、理人は小さく息をつくと、改めて目の前のステージに意識を向けた。 「あー楽しかった。僕、ちょっとトイレに行ってくる!」 「お? おう……」  ショーが終わると、ケンジは急に立ち上がると、そう言って足早に走り去って行った。よほど我慢していたのだろうかその姿はあっという間に見えなくなってしまう。  たく、そう言うところまで子供みたいだ。なんてことを考えつつ建物の陰で待っていると、いきなり後ろから肩を掴まれた。 「――おい、なんでお前がこんな所に居るんだ!?」  聞き覚えのある声に問われ、振り向くと先ほどのレッドが理人のことを睨みつけていた。

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