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待ち合わせは午前10時。学校近くにあるファーストフード店だった。 夏休みも終盤に差し掛かっているせいか客はまばらで、店内には所々でテーブルにプリントを広げて宿題をしている学生の姿が見受けられる。 宿題なんてもっと早くに終わらせておけばいいものを。そんな事を考えながら店内をぐるりと見渡すと、視線に気付いたケンジが軽く片手を上げた。 「悪いな。待たせて」 「うぅん、僕もいま来たところだから」 そう言ってはにかんだ笑顔を浮かべるケンジは先週より若干肩回りがごつくなった様な気がする。 出会った時にはもう少し華奢だったような気もするが、いつの間にか身長も自分より高く伸びているし、体つきもしっかりしてきたようだ。 だからだろうか、ノースリーブから飛び出した腕の筋肉の付き具合とかを見ると妙に落ち着かない気分になる。 ユニセックスな服を好んで着ているし、どちらかと言えば中性的な顔立ちをしているからあまり気付かないが、やはりコイツもちゃんとした男なのだと思い知らされる。 「なに? 僕の顔に何かついてる?」 「いや……。別に……」 今の思いをうまく言葉で表現できずに口籠る。ケンジは不思議そうな顔をして理人を見ていたが、やがて小さく微笑むと「まぁいいや」と呟いた。 「それで? 俺に相談って何?」 「え?  あぁ、それなんだけど……」 そこで言葉を区切り、何故か言い辛そうに視線を泳がせる。 「――なんだよ。勿体ぶりやがって」 「蓮君から、何か連絡、来た?」 「あ? いや……」 「そっか……」 理人の答えに、ケンジの表情が益々曇った。 「何だよ、なんかあったのか?」 「実は……昨日、蓮君が家に来て……、今までの事ゴメン。って頭を下げられたんだ」 「……は? 」 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。 「なんで……アイツが頭なんか……」 「それが、わかんなくて。だから、もしかしたらリヒト君の所にも行ったんじゃないかって思ったんだけど……」 「家には来てねぇよ」 蓮とは、あの動物園以降一度も会っていない。 「つか、なんで俺の所に来るって思うんだ。そもそも、家教えてねぇし」 「えっ? だって、リヒト君って蓮君とそう言う関係……でしょう?」 「っ、ゲホッゲホッ」 予想外の発言に飲みかけのコーラを噴き出しそうになり、思わず咳き込む。何故、わかったのだろうか。上手く誤魔化せていると思っていたのに。 動揺を悟られないように必死に取り繕いながら、理人は何とか平静を装い口を開いた。 「な……っ、なに、バカな事……っ」 「誤魔化さなくていいよ。二人を見てたらわかるし」 「見たらわかるって……」 それはそれで恥ずかしすぎる。思わず頬が熱くなるのを感じながら、何も言えずに理人は俯いた。 「蓮君は、本当に反省しているみたいだった。何がきっかけで謝ろうと思ったのかはわからないけど、そこに嘘や偽りは無かったって思いたい。まぁ、謝られたって、彼から僕が受けた心の傷が癒えるわけじゃないし、事実は変わらないんだけどね」 自嘲気味に笑いながら、どこか寂しげな瞳でケンジが窓の外へと目を向ける。 その横顔からは普段のふわんとした雰囲気は消え失せていて、理人は居心地の悪さを感じた。 いつもへらへらと笑っている奴がこんな顔をすると、どうしてこうも胸がざわつくのだろう。 「リヒト君も、早く解放されるといいね」 「――えっ?」 「え?」 突然の言葉に驚いて聞き返すと、ケンジもまた驚いたように目を丸くした。 「てっきり僕は……リヒト君も蓮君の呪縛から解放されたがってるんだと思ったんだけど。違った?」 「……」 直ぐに即答できなかった。確かに、蓮の事は憎んでいる。いや、憎んでいた筈だった。けれど、今は――? 「俺は……」 自分の気持ちがわからず、ただ困惑する。 蓮に対する憎しみは確かにある。だが、それと同時に身体が蓮を求めている事も確かなのだ。この感情が何なのか、今の理人にはわからない。

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