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act,7 虚な心
――それから一年が経ち、理人の周辺は表向きは穏やかに過ぎていった。
蓮はあの日以降、何も言わず接点も無いまま学校を卒業して行ってしまった。
卒業式の時に目が合ったが、結局お互い一言も発せないまま――。
あの時、蓮が何を言いたかったのか。いくら考えても応えは出ないまま月日ばかりが過ぎていく。
結局蓮と過ごした半年間で得たものと言えば、性に貪欲な身体と、散々教え込まされたテクニックの数々だけだ。
蓮と別れて暫く経つ頃、理人はハッテン場と呼ばれる場所へと足を運んだ。
もはや玩具だけでは満足できず、何時しか見知らぬ男に犯されることを望むようになっていた。
勿論、本田との関係は継続中だが彼は、口でしてやれば満足するので特に不満はない。
表向きは成績優秀な優等生を演じつつ、裏では快楽に溺れる日々。
誰かに抱かれている間だけは、心が満たされる様な錯覚を味わえる。例えそれが一瞬の夢だったとしても、身体を触れ合わせている間だけは愛されているような気がするのだ。
そんな自分に激しい嫌悪感を抱いた時期もあったが、今ではすっかり慣れてしまった。そして、その生活は今も続いている。
深夜になり、両親が寝静まったのを確認してから家をそっと抜け出して、近所のネットカフェへと転がり込んだ。
適当に選んだ個室に入ると、パソコンを立ち上げてお気に入りのサイトへとアクセスする。
このサイトはゲイ専用の出会い系サイトで、様々な趣向を持った男たちが日夜集まっては欲望を発散させている。
プロフィールに写真を掲載し、好みの相手を検索してメッセージを送る。そうすると相手側から返事が来るので、会ってセックスをする――。
目的がはっきりしていてシンプルな仕組みだから、都合がいい。
理人がシャワーを浴びている間に、数件のメッセージがさっそく届いていた。 その中に、蓮という名前の男がいて理人は小さく息を呑む。
まさか、そんなはずは……。顔写真を確認しようとしたが相手は写真を登録しておらず、名前と年齢だけが記されていた。普段ならプロフの記入が少ない人とは会わないようにしている。
だが、どうしても蓮と言う名前が気になって仕方がなかった。
もし、彼があの時の彼だったら……。そんな淡い期待を胸に理人は恐る恐るメッセージを返した。
それから数十分後、理人は指定されたホテルの前に居た。ここに来るまで、心臓が早鐘を打っていた。もしかしたら、別人かもしれない。けれど、もしかしたら……。そんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡っている。
意を決して部屋番号を確認し、震える手でチャイムを押す。ゆっくりと開いた扉の先に居たのは……。
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