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 あれからさらに数カ月が過ぎ、気が付けば卒業式の日を迎えていた。  寒かった冬もようやく終わりが見えて、頬を撫でる風も暖かくなってきたように感じる。  3月に入ってすぐの頃はまだまだ寒い日が続いていたけれど、ここ数日で随分と春めいて来たようだ。桜の蕾もほころび始めている。  今日でやっと、本田からも解放される。  この二年間、本当に散々な目に遭った。 セックスやドラッグ、暴力といった犯罪行為とは無縁の生活を送っていた筈なのに、まさか自分が性に振り回され溺れる日が来るなんて入学当初は考えてもみなかった。  しかも、よりによって相手は男。  今でも時々、これは全部悪い夢で本当は自分は女の子と付き合って童貞を卒業しているんじゃないかなんて思うことがある。  だけど、そうじゃないことはちゃんと理解している。そんなのは全部妄想で、今ここにいる自分が現実だ。  抱かれる時に感じる強烈な快感を知ってしまった以上、これから先もまともな恋愛なんて出来るとは思えない。  女を抱くよりも、男に犯される方がずっと興奮する。  こんな身体にされてしまった責任をどう取ってくれるつもりなのか今度会ったら絶対に問い詰めてやろうと思っている。  だが、あの日サイトでコンタクトを取ったっきり、蓮と接触することは適わなかった。  一度だけ彼の家を訊ねてみたが、彼は家を出て一人暮らしを始めたようで結局会えずじまいだ。 「……鬼塚君、話があるんだ」  学校に着くなり、いきなり廊下で呼び止められた。いかにもスポーツ一筋で頑張ってきましたと言わんばかりの爽やかな風貌をした男子生徒。 確か、剣道部キャプテンで、インハイにも出場経験があり、よく壇上に上がって表彰状を、貰っている姿を見た事がある。暑苦しいまでに責任感が強く、まっすぐな性格で将来は警察官になりたいのだと豪語していたのを聞いたことがある気がする。名前は確か……間宮大吾と言っただろうか。 同じクラスになったことは無いが顔だけは知っている。その程度の間柄で今まで話したことなんて一度も無かった。 自分とは全然違う。正反対と言ってもいいくらいのタイプだ。 「実は……前から君のことが好きだったんだ。僕と、付き合ってくれませんか?」 誰もいない屋上で、慎ましやかに理人への好意を告げられた。 「こんなこと言ったら、迷惑だって言うのはわかっている。だけど、どうしても伝えたくて……」 拳を握りしめ、まっすぐに理人を見つめながら真剣な面持ちで言う彼。僅かに声は震えているし、緊張で手も顔も真っ赤になってしまっている。 一瞬、罰ゲームか何かの類だろうか? という思いも過ったが彼の様子を見る限り、そんな様子は微塵も無かった。 寧ろ、緊張しながら返事を待っているのがありありと伝わって来る。  ――あぁ、眩しいな。 ふと、そう思った。 純情で真っすぐな告白。 真っすぐな瞳が不安そうに揺れて、理人の返事をドキドキしながら待っているのがわかる。 彼のような青年と付き合えたら、清い交際が出来るのかもしれないが、今の自分はあまりにも穢れすぎている。 真っ白な彼の人生の1ページに自分のような濃い染みを残すわけにはいかない。

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