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 一瞬、何を言われたのかわからず、ポカンと口を開ける。 「いやいや、そんなわけ無いだろう? 何を言って」 「本当ですって。当時よくいた公園の名前も言えますよ? なんなら、理人さんが着てた練習着のブランドだって覚えてますし」 「いや、でも……報告書には神奈川県出身で、両親と姉がいると……」 「うちの母さん、僕が中学に上がる前に再婚したんです。凄くいい人ですよ。暴力なんて絶対に振らないし、穏やかで」  秀一と、いつかまた会えたらいいなとずっと思っていた。でも、まさかそれが、目の前にいる恋人だったなんて――。 「おまっ、そう言う事は最初から言っとけよ」 「当時の僕はまだ子供だったし、見た目もだいぶ変わったので忘れてるだろうなって思ってたから言えなかったんです。理人さんは以前とほとんど変わってなかったので、直ぐにわかりましたけど」  そう言われてみれば、確かに瀬名の容姿は昔の面影を残しているような気もする。無意識のうちにそれは無いと思っていたのは、小学生と高校生という歳の差を認めたくなかったからかもしれない。  けっして忘れたわけでは無かったが、改めて言われるまで気づかなかったのは事実だ。 「それはそうと理人さん――報告書って何の事ですか?」  にっこりと笑いながらも目が笑ってない。どうやら、余計な事を口走ってしまったようだ。と気付いたが時すでに遅し。  まさか、彼が入社した時から気になって仕方が無かったので素性を調べさせてもらったとは言い辛い。 「何の事だかさっぱり」  しらを切ろうとしたが、立ち上がって食器を片そうとしたタイミングで瀬名に腕を掴まれた。そのまま食器を奪われ、テーブルの上に押し倒される。 「っ、お、おいっ」 「誤魔化そうとしても無駄ですよ。正直に話すまで離しませんから」  そう言うと、瀬名は理人のシャツを捲り上げてきた。ひんやりとした指先が脇腹をなぞり、思わずビクっと身体が跳ね上がる。 「なっ、てめっ何処触ってんだっ!?」  ギョッとして抵抗しようとするが、マウントポジションを取られている上に両腕をしっかり押さえつけられているため身動きが取れない。せめてもの足掻きでジタバタと暴れてみるものの、まるで効果が無いようだった。 「ほら、早く白状しないとこのままここで犯しますよ?」 「はっ!? ふざっけんなっ! 朝から盛ってんじゃねぇよ!!」 「嫌がってるようには見えないんですけどね。あ、もしかして期待してるんですか?」  耳元で甘く囁きながら、胸元をギュッと強めに摘ままれた。 「あぅっ! んな訳あるか!!」 「じゃぁ、答えて」 「う……」  有無を言わさぬ口調で詰め寄られ、言葉に詰まる。答えを促すように両方の乳首をキュウゥと強く捻られ、耳の中をぞろりと舐められると背筋にゾクリと甘い痺れが走った。 「ほら早く」 「っ、あっ、……チッ、わかった、わかったからっ! お前が入社した時、ちょっと気になって調べさせたんだよっ」  観念した理人が渋々そう告げると、瀬名は一瞬驚いた顔をした後、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。 「そう、やっぱり理人さんも僕の事が気になってたんですね。嬉しいなぁ」  そう言うと、瀬名はようやく理人の上から退いた。 「別に今更隠す必要なんて無かったのに。そう言うところも大好きですよ」 「うるさい!」 「理人さんは? 言ってくれないんですか?」  甘えるような声音でそう問われ、言葉に詰まる。ベッドの中でなら多少は恥ずかしさも軽減されるが、素面で言うのは未だに慣れない。 「チッ、うるせぇな。昨夜も散々付き合ってやったし、言っただろ」 「理人さんの口から聞きたいんです」 「……っ……」  瀬名に見つめられ、顔が熱くなるのを感じる。イケメンの無駄遣いだろ。と心の中で毒づきながら、面倒くさそうに口を開いた。 「はいはい、好きだよ。 これでいいだろ?」 「えーっ、心が籠ってない。やり直してください」 「あ? 調子に乗りやがって……」  心底愉しそうな顔をして、やり直しを要求され、理人は眉間にシワを寄せた。 「たく――時間もねぇから、今はコレで勘弁しろよ」  言いながら瀬名の胸元をグッと引き寄せ、唇にそっと口付けた。羽のようにそっと触れるだけのキスをして、首に腕を回すと角度を変えて今度は深く口付ける。 「――っ」  たっぷりと時間を掛けて濃厚なキスをすると、チュパッと音をたてて唇が離れた。  互いの唾液で濡れた瀬名の薄い唇を親指で拭ってやる。 「……っ、ズルいですよ……、こんな、キス……」 「言葉なんかより、ずっといいだろ?」  理人はしてやったりと言わんばかりの顔をしてフフンと鼻で笑うと、身支度を整えに洗面所へと向かった。

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