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その後は散々だった。食事中もずっと機嫌が悪く、重い空気に思わずため息が洩れる。
「……帰るぞ」
「えっ!? もう、ですか?」
まだ午後1時前だというのに帰ると言い出した理人は、小さく息を吐くと立ち上がって空いたトレーを持って立ち上がる。
「せっかく来たのに、そんな辛気臭い面してたって楽しくねぇだろ」
今回は自分は何も悪くない。ただ、タイミング悪く昔の男と出会ってしまっただけだ。
理不尽なヤキモチも度を過ぎればウザいだけだと、文句の一つでも言ってやりたかったが、そこはなんとか堪えた。
ここは大人になって我慢してやる。
「っ、待って! ……頭ではわかってるんです。彼は過去の男だって。理人さんに彼への感情は微塵もないってわかってるのに――。どうしても、嫌な気分になってしまう自分が居る」
瀬名は、先を歩く理人の腕を掴むとその場に引き留めた。俯いて、自分の思いを吐露する間、理人は抵抗もせず黙って聞いている。
「でも! 理人さんのこと信じてないわけじゃな――むぐっ」
「ばか、声でけぇっつーの! ちったぁ周りを見ろ!」
これ以上放っておいたらとんでもない事を口走りそうな気がして、理人は思わず瀬名の口を両手で塞いだ。
ここはフードコート内の一角で、周囲には幼い子どもたちが食事を楽しんでいる最中だ。
そんな中で、恥ずかしいアレコレを暴露されたら堪らないし、周りの客たちからも変な目で見られること請け合いだ。
ただでさえ大人の男二人が一緒に連れ立って歩いているだけでも目立つのに、痴情のもつれで喧嘩なんてしているのだと勘違いでもされてしまったら面倒すぎる。
瀬名の口から手を離し、溜息を吐くと理人はガシガシと頭を掻いた。
「お前もいい大人なら、もう少し自分の感情を抑える術を覚えろよ。ガキじゃねぇんだから」
「すみません」
しゅんと肩を落とす瀬名の姿は、まるで叱られた子犬のようで思わず笑ってしまいそうになるのを必死に堪える。
本当に面倒くさい男だ。ヤキモチを妬くのは構わないが、その矛先が自分に向けられるのは勘弁して欲しい。
「ほら、行くぞ。せっかく来たんだ。今日を楽しもうぜ? ずっと来たかったんだろ?」
手を差し出すと、瀬名は一瞬驚いたような顔をして、理人を見た。
「んだよ……」
「いや、手……、また繋いでくれるんだなって思って」
「嫌なら別にいい! お、お前が繋ぎたそうにしてたから出しただけだっ」
慌てて引っ込めようとした手を素早く掴まれするりと腕が絡みついてくる。
「っ、流石にくっつきすぎだろうがっ」
「えー、いいじゃないですか。手を繋ぐのも腕を組むのもそう変わりませんよ」
ね? と耳元で囁かれ、そんなわけ無いだろう!と、反論する。
「目立つのは嫌だ」
「午前中は繋いでくれてたのに。あれも十分目立ってた気が」
「うるさい!」
理人がキッと睨みつけると、瀬名はくすっと笑いながら理人の腕を引いて歩き始めた。
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