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9−9
それから二人は園内を見て回り、夕方近くになって、最後に観覧車へと乗り込む事にした。
ゆっくりと上昇するゴンドラの中で、瀬名は窓の外の景色を眺めている。
「今日はありがとうございました。凄く、楽しかった」
「……そうか。そりゃ良かった」
一時はどうなることかと思ったが、そうやって楽しかったと口にしてもらえると悪い気はしない。
「夕日が、凄く綺麗……」
朱に染まった空に目を細める瀬名につられて理人も視線を上げる。
確かに、美しい光景だった。
オレンジ色の光が、園内の池に反射してキラキラと輝いている。
それはまるで宝石のように美しく、幻想的な風景を生み出していた。
「オレンジの光が黒い髪によく映えて、本当に――」
「えっ?」
無意識に手を伸ばし、瀬名の少し癖のある髪をそっと撫でた。驚いて顔を上げた瀬名と視線が絡む。
「あぁ、その、つい……。お前の髪の毛、綺麗だから触りたくなっちまって……」
「っ、理人さん……」
「わっ、ちょっ、おいっ」
ぎゅうっと力強く抱きしめられ、そのまま座席に押し倒された。
「おい、危ないだろ! いきなり何するんだ」
「理人さんが可愛い事言うから……」
「はぁ?」
「無自覚とか……タチが悪いですよ。そんな事言われたら、期待してしまう……」
瀬名の指先が、服の上を滑り首筋を辿って顎を掴んだ。至近距離で見つめられ鼻先が触れ合う距離にまで顔が近づく。
「ねぇ、理人さんキスしたいです」
「っ、なっば……っここっ観覧車の中だぞ!?」
「大丈夫、もうすぐてっぺんだから……誰も見てませんよ」
甘く蕩けるような眼差しに見つめられ鼓動が一気に跳ね上がった。
「ね? 理人さんは? したくないの?」
ゆっくりと頬を撫でられ、ピリピリと肌が粟立つ。ダメだ。このまま流されたら、きっととんでもない事になる。
そう思うのに、理人の唇から拒否の言葉が出ることはなかった。
「――キスだけ、だからな」
恥ずかしくなって視線をそらすと瀬名は嬉しそうに破顔して、理人に覆いかぶさった。
「ちょ、まっ……んっ、ふ……ぅ」
戸惑うまもなく熱い舌が口の中に侵入してきて、歯列をなぞられる。ゾクッとした感覚が身体中に広がっていく。
逃げるように巻いた舌を追いかけ絡め取られれば、そこから伝わる熱に眩めいた。
次第に激しくなる口づけに呼吸すらままならず、頭がぼんやりと霞んでくる。
やがて、息苦しさに限界を感じて理人は瀬名の胸を押し返した。
「はぁっ、はぁ……っばか、キスだけって言ったろうが」
「キスしかしてないでしょう?」
荒くなった息を落ち着かせようと深呼吸を繰り返していると、瀬名が満足そうにクスリと笑って頬に口付けてきた。
その柔らかな感触がくすぐったくて、理人は身を捩る。
「っ、だ、だからって……こんなキス……」
「感じちゃった?」
「……ちが……っ」
悪戯っぽく笑う瀬名にカッと頭に血が上る。
図星をさされ何も言い返せない理人を楽しげに見つめると、瀬名は再びちゅっと音を立てて頬に軽く口付けた。
そして、もう一度とばかりに顔を近づけてくる。
地上はもうすぐそこまで迫って来ていた。
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