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 なんと言っていいかわからずに、押し黙っていると、瀬名が静かに口を開いた。 「……信じて貰えないって、やっぱり……辛いですね」  泣き笑いのような表情でそう言うと、瀬名はくるりと背を向けた。 俯いて表情はわからないものの、強く握られた拳が小さく震えているのが視界の端に映る。 「ち、ちがっ……俺は別に……そんなつもりじゃ」 「もう、いいです。……これ以上、此処にいてもお互いの為にならないだろうから、僕はホテルに戻りますね。強引に連れ出してしまってすみませんでした」  それだけ言うと、瀬名は足早にその場を後にしようとする。  慌てて追いかけようとしたが、時すでに遅し。瀬名は丁度のタイミングでやって来たタクシーへ素早く乗り込むと、一度も理人の方を振り返ることなく、そのまま走り去って行ってしまった。 「……ッ、馬鹿か、俺は……」  理人はその場にズルズルとしゃがみこむと、髪をくしゃっと掻きむしり、盛大な溜息を吐いた。  どうしてこうも上手くいかないのか。どうして自分はいつも大事なところで失敗してしまうのか。  信じてやりたいと思いながら、結局同じことを繰り返してしまっている。   あんな顔、させたかったわけじゃないのに――。  視線を上げると暗い空から糸のような雨が、静かに降り注いできた。あっという間に濃くなって周囲を包み込んで行っても、理人はしばらくその場から動くことが出来なかった。  ***** 「やぁねぇ、目の下に大きなクマなんか作っちゃって。昨夜はダーリンが寝かせてくれなかったの?」  翌日、理人が待ち合わせ場所でナオミを待っていると、開口一番に彼女はそう言った。 「んなわけねぇだろ、頭沸いてんのか? アイツの話はすんな」  理人はうんざりした様子でため息をつくと、煙草を咥え火を点けた。   瀬名にメッセージを送ろうと思ったが何と書いていいかわからずに、悶々と過ごすうちに朝になってしまい、昨夜は結局、一睡もできなかった。 「なぁに? せっかくお膳立てしてあげたのに上手くいかなかったの? あんまり意地張ってると、誰かに取られちゃうかもよ?」 「……チッ、うっせーな……わかってるんだよ、んな事は」  理人は苦虫を噛み潰したような表情でそう吐き捨てた。  瀬名との関係が拗れてしまったのは自分のせいだと、誰よりも理解している。  このままでいいわけがないのはわかっているつもりだが、昨日の今日で何を話せばいいかもわからない。 「は~、これだから恋愛初心者って、拗らせると面倒臭いのよねぇ~」  ナオミは頬に手を当て、呆れたような口調で言うと、ヤレヤレと言わんばかりに肩を竦め理人の肩をポンと叩いた。 「取敢えず、辛い事は一旦忘れて今日は楽しみましょ。瀬名君の事は後からゆっくり考えたらいいわよ。時間が解決してくれるかもしれないじゃない?」 「……お前、そんなふざけた見た目してる癖にたまに良いこと言うよな」 「ひっどーい。たまに、じゃなくて何時もでしょ。それに、女性に対して見た目の事を言うのはタブーよ。タブー!」 「……はぁ、そうかよ」  理人は気の無い返事をしながら紫煙を大きく吸い込んだ。そして、ゆっくりと吐き出すと、ナオミのあとをついて歩く。  瀬名の事は気になるが、今は彼女の言う通り、余計な事を考えずに楽しむべきなのだろう。  今日は折角の同窓会なのだから。 「あんま気乗りしねぇが……楽しまないと損、か」 「そうそう、積もる話もあるだろうし、みんな中々来ないアンタに会いたがってるんだから」  パチンとウインクを一つしてみせると、ナオミは悪戯っぽく笑った。

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