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同窓会の会場となっているホテルに辿り着くと、ロビーには多くの人で賑わっていた。
どうやら同じ時間帯で結婚披露宴が入っているようで、受付では招待状をチェックする係の者が忙しなく動き回っている。
エレベーターへ向かう途中、恐らく最後の打ち合わせを終えたばかりであろう新郎新婦のカップルとすれ違った。
純白のウェディングドレスに身を包んだ花嫁はとても綺麗で、幸せそうに微笑んでいる。
自分には縁のない話だ。……だが、瀬名は? もしも、瀬名が誰かと式を挙げることになったら、自分は上司として祝ってやれるだろうか。
瀬名の隣で自分以外の誰かが笑い合っている姿なんて、そんなの――。
「……そんなのは、嫌だ」
思わず洩れた本音は喧騒に紛れて誰にも聞かれる事は無かったが、理人にとってはそれが何より救いだった。
「ん? 何か言った?」
「いや。何でもねぇ」
理人は首を振って誤魔化すように笑うと、先にエレベーターへと乗り込んだナオミの後を追いかける。扉が閉まる直前、下りのエレベーターから降りてきた人物が瀬名に似ていたような気がして、おそるおそる振り返ったが、既にそこには誰もいなかった。
確かめるすべもなく上へと昇りだした箱の中で思わず自嘲気味の笑いが零れた。
幻覚を見てしまうだなんて、本当に、未練がましいにも程がある。
確かに、ホテルに宿泊するとは言っていたが、こんな所に彼がいるわけがないじゃないか。
(瀬名――)
瀬名に会ったら何と言おうか。取り敢えず、会ってきちんと謝りたい。けれど、会った所でまた傷つけてしまいそうな自分が怖い。
情けない気持ちになりながら到着した最上階にある会場へ入ると、室内には既に懐かしい顔ぶれが集まっていた。
「鬼塚君! 本当に来てくれたんだ」
真っ先に駆け寄ってきたのは大学時代の友人でもある、|佐藤真紀《さとう まき》だった。
昔っから世話好きで、高校時代は学級委員長や生徒会役員も務めており、社交的で明るく、ムードメーカ的な存在だった女性である。
性格も悪くはないのだが、如何せん思い込みが激しい一面があり、そのせいで学生時代には色々とトラブルに巻き込まれた事もあって、あまり良い印象を抱いていない相手でもある。
今回、幹事を引き受けてくれたと言う真紀は理人を見つけると嬉しそうに顔を輝かせた。
「いっつも来ないから、今回も欠席かと思ってたよ。元気そうで良かった」
真紀の言葉に苦笑を浮かべつつ、理人も挨拶を交わす。
「悪いな。仕事が忙しくて中々予定を合わせる事が出来なかったんだ」
そんなに嬉しそうな顔をされたら、ケンジに無理やり連れて来られたとは流石に言い辛い。
適当に嘘をついて誤魔化すと、真紀は納得してくれたのかそれ以上追及してくる事はしなかった。
「仕事なら仕方ないわよね。それにしても……。鬼塚君、高校の頃から全然変わらないのね。相変わらずの仏頂面。そんな怖い顔してたら彼女とか出来ないんじゃない?」
「うるせぇ、ほっとけ! 余計な世話だっ」
理人は眉間に深いシワを刻んで舌打ちしたが、そんな事など気にならないのか、彼女はおかしそうにクスリと笑って見せた。
「そんな事より、ほら。みんな待ってるから」
ポンと、尻を軽く押されて思わずよろける。
相変わらずガサツな女だと小さく舌打ちをしつつ、真紀が視線で示した先を見ると、懐かしい顔がいくつもあった。
中にはすっかりメタボの中年体型になった奴や、頭皮の後退が著しい奴までいて、あまりの変わり様に理人は一瞬、唖然としてしまった。
「――お? 鬼塚じゃん久しぶり~! 卒業以来じゃね?」
「マジだ、鬼塚来た。ヤベー、超レアじゃん」
わらわらと集まって来る顔ぶれに戸惑い、自分が珍獣にでもなったような気分で落ち着かない。
「……お前等、随分変わったな。その腹回りは一体なんだ? 昔の面影ゼロじゃねぇか」
「うっせ、もう中年なんだから仕方ないだろ? つーか、なんでお前だけそんな若いままなんだよ」
「知るかよ。俺だって好きでこの状態な訳じゃねぇんだ」
理人がげんなりしながら言うと、彼らは声を上げて笑った。
久しぶりに会う友人達は皆、外見こそ大きく変わってしまったものの記憶の中の彼等とほとんど変わっていなくて、理人は少しホッとした。
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