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その後は、互いの近況を報告し合ったり、懐かしい思い出話に花を咲かせたりとそれなりに楽しい時間を過ごせていたと思う。
「鬼塚君って、役職に付いてるって本当?」
「あぁ、まぁ……」
「良いなぁ、家なんて万年ヒラだし、お給料は安いし最悪」
「……」
「鬼塚君って、結婚とかしないの? まだ独身なんでしょう?」
そう問われて、理人は返答に困った。
滅多に顔を出さない理人が物珍しかったのか、級友たちが次々に話しかけて来る。
人付き合いが苦手と言う程では無いが、自分の話をするのはどうにも苦手だ。
「鬼塚君、困ってるじゃない。人にはそれぞれ事情ってもんがあるのよ」
そう言って助け舟を出してくれたのは、今日の幹事を引き受けてくれた真紀だった。
彼女は昔から、正義感が強く、困っている人が居るとほおっておけないのか、すかさず助けてくれるような所があった。
いつも一歩引いて皆と付き合っていた理人とは対照的な、クラスの輪の中心に居て皆を引っ張って行ってくれるような、頼もしい存在だ。
その姿は、以前と変わらないようで、何処か懐かしいようなホッとするような感情を覚える。
「悪い」
「ううん、いいの。アタシも独身だし。独り身同士仲良くしましょ?」
「……そう、だな」
パチンとウインクしながらグラスを差し出され、苦笑しながらカチンとグラスを合わせる。
「あぁ、そうだ。鬼塚君スマホ、受付に忘れてたよ」
「え? あ、あぁ悪い」
一体、いつの間に落としたのだろう?
受付の時に出した記憶は無かったのだがうっかり落ちてしまったのだろうか?
それならそれで、気付きそうなものだが。
不思議に思いながらもスッと差し出されたスマホを受け取り、ズボンのポケットへと突っ込んだ。
それにしても、いくら晩婚化が進んでいるとはいえ、流石にこの歳にもなれば結婚していないのは少数派で、皆が不思議に思うのも無理はないだろう。
自分には、家族と言うものがよくわからないし、今更女性を相手に出来るなんて思っても居ない。
そもそも、元から結婚願望が無い上に、自分は結婚生活には向いていないと思う。
「そう言えば、真紀も独身だったよね? 結婚しないの?」
「好きな人はいるんだけどね……。中々振り向てくれなくって。あ! でも、なんか昨日偶然会ったんだけど、その人、恋人にフラれちゃったみたいで随分落ち込んでたからチャンスあるかも……なんて」
チラリと、真紀がこちらを見たような気がした。だがすぐにそれは逸らされ、話に食いついて来た女性陣の相手をしている。
何か、意味深な視線だったように感じたが、きっと気のせいだろう。
「11月の半ばくらいに、突然辞めちゃったんだけどね、一緒の職場だったの。凄く背が高くて、優しくて仕事が出来て……カッコイイ人だったんだ~……」
「へぇー。じゃあ今はフリーなんだ」
「まぁね。だから、頑張っちゃおうかなって思ってたりして」
「いいじゃん、頑張りなよ。応援してる!」
真紀の言葉に、きゃあと黄色い声が上がる。
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