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貸し切り露天風呂をご利用の際には、木札を外にお掛けするのを忘れずに。では……」
フロントで好きな柄の浴衣を二人であーでもない、こーでもないと言いながら選んだあと、和服の仲居さんに案内してもらったのはごく一般的な客室だった。
中へ入ると何処かホッとするような畳のいいにおいがする。
この時期はまだ雪景色がとても綺麗に見えるんですよ。と、お茶を入れながら教えてくれた通り、窓からはつい先ほど通って来た山が綺麗に見渡せた。
淹れたてのお茶も美味しくて、なんだかほっこりする。
「予想外のヤツに会っちまったが……。たまにはこういうのもいいもんだな」
「……そうですね……」
言いながら突然、座椅子ごと後ろから抱きしめられた。あまりに唐突で手に持っていたお茶を置く暇も無かった。
戸惑う間もなく顎をくいと持ち上げられ唇が触れ合う。
「……なッ、んっ」
びっくりして声も出ない。ほんの少し割開いた唇の隙間から熱い舌が絡みついてきてしっとりと唇を吸われ首の後ろがざわめいた。
「ん、ちょ、ちょぉ待て、瀬名ッ」
「……なんですか」
「なんですか、じゃねぇよ! なに速攻でサカろうとしてんだクソがっ!」
そりゃ、全然期待してなかったわけじゃなかったけれども。
いきなり過ぎる。そもそも、まだ夕飯も食べていないし、チェックインしたばかりじゃないか。
それなのに、こんな――。
「少しは、ゆっくりさせろ。……夜は長いんだから。今からそんなんじゃ、俺の体力が持たねぇ」
理人が頬を染めて呟けば瀬名は目を丸くした後、ふわりと微笑んだ。そしてもう一度キスをする為に顔を近づけてくるものだから慌ててそれを制止する。
瀬名のスイッチが入るのはいつも急すぎる。だからと言っていつもつい、流されてしまう自分も自分なのだけれど。
偶にしか行けない旅行なのだから、もう少しくらいゆっくりとしたい。そう思うのは我ままだろうか。
瀬名は不満そうな顔をしていたが、理人の顔を見ると諦めたように息を吐いてそっと額に口付けた。
「たく……。取り敢えず、風呂行くぞ」
理人は瀬名の腕からすり抜けると、立ち上がり、そそくさと着替えの準備を始めた。
瀬名は少しだけ残念なそうな顔をしていたが、直ぐに気持ちを切り替えたのか、理人に続いて立ち上がると、棚に置いてあるタオルを取り出して手渡して来た。
それから、部屋を出る前に理人にそっと耳打ちして来た。
「―――夜は覚悟しててくださいね」
その言葉の意味を理解するのと同時に、理人は耳まで真っ赤にして瀬名を睨みつけた。
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