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「あーぁ、背中の洗いっことかしたかったのに」 「うるせぇ、黙ってろ。テメェの下心なんかお見通しなんだよ!」 「え~、酷い。僕の純粋な恋心を疑うんですか?」 「どの口が言うんだ!? ぁあ?」  無防備に背中なんて洗わせたら、石鹸のついた手でどさくさに紛れてあちこちベタベタと触れてくるに違いない。そしてあわよくば……。  なんて展開が繰り広げられるのなんて目に見えている。  理人だって男だ。瀬名とそういうことをするのは嫌いじゃない。寧ろ、どちらかと言えば好きな部類だ。ただ、今は折角の旅行なんだから、出来れば純粋に温泉を楽しみたい。  それに、いくら貸し切りとはいえ半露天風呂だ。いつ、近くを他の客が通りかかるかもわからない。  万が一聞かれでもしたら……。そう考えると、どうしても二の足を踏んでしまう。 「……はぁ。もういいから、さっさと入れよ」 「理人さんのいけず……」 「うっさい。早くしろ」 「ちぇっ」  瀬名は渋々といった様子で湯船に入ってくると、理人の隣に腰を下ろした。  二人分の体積が増えたことで、波紋が広がり水面が大きく揺れる。 「いいお湯ですね。檜の香りもいいし……。日本庭園風の造りも綺麗だし」 「……そうだな」  しみじみとそう話す瀬名の声を聞きながら、理人は目の前に広がる風景を眺めた。  雪景色の中を飛び交う鳥たち。時折吹く冷たい風が木々を揺らし、さらさらと心地よい音を奏でている。お湯はさらりとしていてほんの少し熱かった。家で沸かすお風呂とは違い、温泉特有の硫黄の匂いがする。 お湯だけではなく自分の身体から立ち昇る湯気が、まるで煙のようにゆらゆらと空に溶け込んでいくのが面白い。  浴槽から香る木の香りに癒されて、全身のコリが解れていくようだった。 「理人さんはやっぱり、僕みたいな子供じゃなくて、もっと大人な人がいいんですか?」 「あ?」  いきなり何を言い出すんだと、理人が眉をひそめれば、瀬名は少し寂しげな表情で続ける。 「なんだか、さっきからずっと避けられてるような気がして……。浮かれて期待してるのは僕だけなのかなぁとか思っちゃって」 「……はぁ。……全く、何を言い出すかと思えば……」  理人は緩く息を吐くと、顎を掴んでクイッと引き寄せた。 「露天風呂で二人きり……。しかも貸切なんだぜ? こんなシチュエーションなら、ヤることなんか一つしかねぇだろうが」 「……っ」  じっと目を覗き込み、耳元に囁くように告げると瀬名は頬を赤く染めた。 「……期待してねぇわけねぇだろ。ほら、触ってみろよ」  誘うように微笑み、理人は自らの股間を瀬名の太腿に押し付けた。そこは既に硬く張り詰めていて、瀬名はごくりと喉を鳴らすと恐る恐る手を伸ばして来る。

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