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一体、どうしてこうなってしまったのか……。
温泉を二人で堪能した後、一緒に草津の街を二人で散策しようと約束していたはずなのに、何故か今、理人の目の前にはナオミとその友人が居て、瀬名と仲良く談笑している。
特に、友人だと言うミィコが瀬名の事を気に入ったらしく、先程からずっと側から離れようとしないので、理人は面白くない。
瀬名も少しは嫌がればいいのにと、思うが、そこは持ち前の社交性を発揮して笑顔を振りまいている。
「やぁねぇ、怖い顔して。なぁに? ミィコにやきもち?」
「あ? 面白い冗談だな。俺は元々こんな顔だ」
隣にやって来たナオミに頬をツンと突かれて、ムッとして睨み付ける。
「ふふっ、素直じゃないんだから。理人って、そういう所が可愛いのよね~瀬名君がベタ惚れなのわかるわぁ」
「うぜぇ」
「あら、ひどぉい」
ケラケラ笑うナオミには何を言っても暖簾に腕押しだと、理人は早々に諦めた。
「まぁ、安心しなさいよ。アタシたちは今日の昼からのバスで帰る予定だから。お邪魔虫は早々に退散してあげる」
「……むしろ今すぐ退散して貰っても俺は構わねぇんだが?」
「んもう、毒舌ね。昨夜聞き耳立ててたことまだ怒ってるの?」
「当然だ。変態どもがっ!」
「ごめんってば。悪かったと思ってるわよ。忘れ物を届けに行ったら、 たまたま 聞こえちゃったんだからしょうがないでしょ?」
悪びれた風でもなくそう言ってナオミは笑った。本当に反省をしているのだろうかと疑いたくなる。
「まぁ、でも、ちょっと安心したわ。理人って、中々本心を見せないから心配だったんだけど。……素直じゃないし。瀬名君は、その辺ちゃんとわかってくれてるみたいだし」
「……」
「瀬名君のこと、好きなんでしょ?」
「……っ」
真っ直ぐに見つめられて、理人は言葉に詰まった。そんな理人をナオミは優しい眼差しで見守る。
「嫌いだったら、こんなとこまで一緒に来てねぇよっ」
「ほんっと素直じゃないんだから。……まぁ、そこが理人らしいって言うか」
呆れたように溜め息を吐いた後、「ふふっ」と楽しげに笑ってナオミは理人の背中をポンと叩いた。
「幸せになりなさいよ」
「……っせぇ」
恥ずかしくてぶっきらぼうに返事をすると、クスリと笑い声が返ってきた。
「――二人で何の話してるんですか?」
いつの間にか、瀬名が目の前までやって来ていた。
「別に何でもねぇ」
「ほんっと素直じゃないんだから。……まぁ、そこが理人らしいって言うか」
「……? 」
「理人がどれだけ瀬名君の事が大好きなのか、聞きだしてたの」
「おいっ!」
慌てて口を挟むが、時すでに遅し。瀬名は嬉しそうに顔を綻ばせて理人を見下ろしてきた。「へぇ、そうなんですね」と、ニコニコと微笑まれて、居心地が悪くなる。
「フフ、アツアツね。これ以上邪魔して理人の機嫌が悪くなったら困るだろうから、アタシたちはそろそろ行くわ」
「っ、んなわけぇだろ! クソがっ」
「はいはい。行きましょ。ミイコ。二人ともまたね。たまにはお店に来なさいよ?」
満足そうに笑いながらひらりと手を振ると、ナオミとミィコは足取りも軽やかに去って行った。
「たく、余計な事ばっか言いやがって……」
理人は小さくなっていく二人の後ろ姿を眺めながら、ぽつりと呟く。
「理人さんは、もう少し自分が色々な人に好かれている自覚を持った方がいいですよ」
「はぁ? どういう意味だよ?」
「そのままの意味です」
「?」
言っていることがよくわからない。理人は不思議そうに首を傾げた。
「……まぁ、いいです。それよりデートの仕切り直し、しましょうか」
瀬名の指がそっと理人の頬を撫でる。理人は一瞬目を丸くした後どこか気恥ずかしさを覚えながらも、こくりと静かに首を縦に振った。
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