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それから二人で、草津名物の饅頭を食べたり、土産物屋を覗いたりと温泉街を散策して歩いた。 普段はデスクワークが多いせいか、たまにこうして体を動かすのもいいものだと感じる。 「理人さん、それ一口下さい」 ライトアップされ始めた湯畑を横目に歩いていると、不意に瀬名が唇を寄せてきた。 「お前、さっきは食わねぇって言ってただろ」 「理人さんが食べてるの見たら、やっぱり美味しそうだなって」 「……たく、食いかけだぞ?」 「はい、ソレがいいんです」 はい、と口を開けられて仕方なく持っていた饅頭を差し出すと、瀬名がパクリと齧り付いた。 瞬間、指に唇の柔らかな感触が触れてドキリとする。 触れた指先にそっと自分の唇を寄せると、何だかくすぐったい気持ちになった。 「ん、さっき食べたのも良かったですけど、このお饅頭もおいしいですね」 「……っ、そう、だな」 「……どうかしたんですか?」 「べ、別にっ」 何となく気まずくなり、理人は誤魔化すようにそっぽを向く。瀬名の視線を感じたが、敢えて気付かない振りをして、夕闇に照らされる景色をぼんやりと見つめた。 暫く無言で歩くと、やがて前方に大きな橋が見えて来た。 草津の湯釜を囲うように作られた巨大な木製の橋の欄干には、いくつもの朱色の提灯がぶら下げられていて、幻想的な雰囲気を作り出している。 「へぇ、凄いな……」 「綺麗ですね」 「ああ、こんな場所があるなんて知らなかったな。結構、人もそこまで多くないし、穴場スポットかもな」 「そうかもしれませんね」 するりと伸びてきた腕に腰を引き寄せられ、二人の距離がグッと近くなる。 「お、おいっ近いっ」 「誰も見てませんよ」 慌てふためく理人に、瀬名は平然とそう言ってのける。確かに、周りを見てみてもカップルばかりなので、二人を気にしているような人間はいないようだ。 けれど、やはりこんな所で密着するのは落ち着かない。 理人は瀬名の腕から逃れようと身を捩ったが、瀬名はそれを許さなかった。それどころか、ますます強い力で身体を引き寄せてくる始末だ。抗議しようと顔を上げると、ふいに瀬名と目が合った。 キスされる。その気配を感じ取り、避けきれないと判断した理人は思わずぎゅっと目を閉じる。 だが、いくら待っても想像していたことが起こらずに、そっと薄目を開けると、目の前にしたり顔で笑う瀬名の顔があった。 からかわれたのだと理解した瞬間、ぼっと火でも噴きそうな勢いで顔が熱くなる。 「……チッ、性悪がっ」 色々な感情がぐるぐると渦巻いて、口を開きかけたが、結局出てきたのはそんな言葉だけだった。 「すみません。理人さんが可愛くてつい、意地悪したくなっちゃいました」 全然悪いなんて思っていなさそうな口調が益々腹立たしい。理人はぷいと瀬名に背を向けると、腕の中をすり抜けズンズンと大股で歩き出した。 「理人さん、待ってください」 瀬名は苦笑しながらその後を追いかけてくる。 「置いていかないでくださいよ」 「……」 理人はチラリと時計を見た。時刻は19時を少し回った所だ。予定より少し早いが《《頃合い》》かもしれない。 「悪いと思ってるんなら、この後ちょっと付き合え」 「え?」 「行きたいところがあるんだ」 「行きたい所? 何処ですか?」 「それは――」 言いかけたその時、理人は視界の端で何か動くものを捉えた。

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