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「鬼塚君に用は無いの。退いてくれない?」
「あ? 嫌に決まってるだろうが」
吐き捨てるようにそう言って、真紀を睨み付ける。ようやく邪魔者が去ったと言うのになぜこうも上手く事が進まないのだろう?
しかも、今度の相手は瀬名の元同僚でもあり悪質なストーカーだ。いくら自分の同級生だと言っても、瀬名を傷つけるとわかっていて簡単に引き渡すわけにはいかない。
それに、先ほどの会話を聞く限りだと、彼女は自分と瀬名の関係に気づいていないようだった。ならば尚更、黙っている訳にはいかない。
「真紀、お前こんな所まで来て、もしコイツが一緒じゃなかったらどうするつもりだったんだ。なんで一緒に居るってわかった?」
「わかるわよ。だって、秀一が言ってたもの。理人さんと一緒に居る時が一番幸せだって。別れたわけじゃない、今は少し喧嘩して距離を置いているだけだって。私と付き合ってた時は一言もそんな事言ってくれたことなかったのに」
「……」
理人は絶句した。瀬名がそんな事を言っていたなんて知らなかった。
「だから、目を覚まさせてやろうと思って来たの。秀一は騙されてるんだよ。貴方、真面目過ぎるところがあるし、ちょっと押しに弱いから、きっと鬼塚君に良い様に言いくるめられちゃったんでしょう? 顔怖いし、威圧感あるから脅されて嫌々付き合わされてるだけなんでしょう?」
「佐藤さん、それは違う。僕は――」
瀬名が何かを言いかけたが、理人はそれを制止するように片手を上げた。
「ごちゃごちゃうるせぇ女だ。瀬名が俺の事をどう思ってるのかなんて、関係ねぇよ。俺は、コイツが好きだし……これから先も、ずっと一緒に居たいと思ってる。瀬名は俺の大切な恋人なんだ。……誰にも渡さねぇ」
「理人さん……」
理人の言葉を聞いた瞬間、真紀の顔がみるみると歪んでいく。それはまるで親の仇でも見るような、憎々しげな眼差しだった。
「なんて強引な……。秀一の気持ちは一切無視して連れ回すなんて信じられない!本当に最低な男ね!」
「はっ、そうやって他人の話を聞かずにわざわざ押しかけて来る奴の方が余程最悪だと思うがな」
「何ですって!?」
「せっかく、誰にも邪魔されずに二人で過ごせると思ってたのに、全部台無しにしやがって」
理人はチッと小さく舌打ちをする。折角、瀬名と楽しい時間を過ごしていたのに、まさかこんな所で邪魔が入るだなんて思いもよらなかった。
「邪魔なのはそっちでしょ!? いい加減にしてよ!! ……あんたさえ、あんたさえいなければ……!」
真紀がヒステリックに叫ぶと、いきなり理人の胸倉を掴んだ。ぎらりと光る何かが見えて、咄嵯に腕でガードしようとするが、それより早くそれは振り降ろされ、理人は思わず顔を背ける。次の瞬間――カキンッという金属音が響いたかと思うと、理人の腕に焼けるような鋭い痛みが走った。
「っ!?」
恐る恐る視線を落とすと、そこには刃物のようなものが転がっていた。
「理人さんっ!!」
「チッ、外した……」
真紀は忌々しげに舌打ちをすると、再び理人に掴みかかってきた。けれど、その腕を掴み捻りあげる動きの方が早かった。
理人は足でナイフを端の方へと蹴り飛ばし、鮮やかな手つきで地面に押し付け動きを封じた。
「ちょっと!離しなさいよ!!」
「この馬鹿力……っ」
真紀が暴れるせいで、理人はバランスを崩しそうになる。だが、ここで手を緩めるわけにはいかなかった。
「理人さん。血が……」
「こんなもんかすり傷だ。それより、早く警察を」
こんな危険な女を、これ以上野放しにしておくわけにはいかない。
「誰か助けて! この人に襲われているの! おねが、ムグっ……!!」
必死の形相で叫ぶ真紀の口にハンカチを突っ込み、膝で動けないように身体を固定してから、後頭部でギュッときつく縛ってやる。
「チッ、うるせぇ女だな。あんま目立つことはしたく無かったのに……」
いつの間にか周囲には人だかりが出来ていて、ざわめきが大きくなっていた。
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