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act.13
「お帰りなさい! 婚前旅行旅行楽しかったですか?」
週明け、仕事に行くと理人たちに気付いたフロアの面々が口々に声をかけて来た。
「誰が婚前旅行だっ! 違うっつーの!」
「えっ? 違ったんですか? あんなにあ「瀬名は取り敢えず黙ってろ、クソっ」」
ぎろりと睨み付けて瀬名の口を塞いだ理人は、疲れたように溜息をついた。
コイツに喋らせたら何を言い出すかわかったもんじゃない。
周囲のスタッフはそんな二人のやり取りは慣れっこになっているのか、微笑ましいものでも見るかのように生暖かい視線を送ってくる。
「そういえば、お二人が留守の間にちょっと変わったお客様が尋ねて来ましたよ」
「客?」
旅行に行く前、自分が請け負っている顧客には確実に期間中は対応できない旨を事前に伝えていたし、わざわざ訪ねてくる者もいないはずだが。
「はい、なんか……凄く禍々しいオーラを纏った女性の方が尋ねて来られて」
「俺にか?」
「いえ。瀬名さんを探しているようでした」
「……」
理人と瀬名は互いに目配せし合うと、すぐにピンときた。
「それって……アイツだな……」
「恐らく……間違いないですね……」
「? 何か知ってるんですか?」
「まぁ……ちょっとな。それで? 直ぐに追い払ったんだろうな?」
「今は休暇中だと伝えたら、『やっぱり』とかなんとかブツブツ言いながら去っていきましたけど」
「あぁ……」
わざわざ向こうまで押しかけて来た彼女を思いだし眩暈がする。そこまでする執念に呆れると共に、瀬名の身を案じる。
「わざわざ職場に突撃してきてたとは……」
「困りましたね。まぁ、一度警察のお世話になったんだし、そうそう手は出してこないと思いますけどね」
「だと良いんだが……」
わざわざ草津まで押しかけてくるような女だ。そう簡単に諦めるようなタマではないだろう。
「取敢えず、警戒しておくことに越したことは無い。何かあればすぐに言えよ。萩原も、教えてくれて助かった」
「いえ。気を付けてくださいね? あの人、なんだかヤバそうだったので」
「……ヤバそう、じゃなくて実際ヤバイ女だったんだけどな……。たく、なんつー女に手を出したんだお前」
思い出しても腹が立つし、恐怖で身体が震えそうになる。
「え? 僕、彼女とは付き合った事なんて一度も無いですよ」
「あ? だってあの時……アイツ付き合ってたって言って……」
「彼女の妄想じゃないですか? 以前の職場で一緒だったって言っても、フロアが全然違いましたし……。まぁ、沢山の書類を持って歩いてたので少し手伝ったりはしましたが、その程度で」
「妄想であそこまで拗らせんのかよ」
「その女、ヤバすぎますね……」
いやもう病み過ぎていて怖いを通り越してるレベルだが……。
ここに来た当初、瀬名がもっさりとした風貌にくそダサい眼鏡を掛けて変装していたのだが、そうしたくなる気持ちもわかる気がする。
出来ればもう二度と会いたくない。
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