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act.14
翌日、仕事に行くと藤田が辺りをきょろきょろしながら理人の側までやってきた。
「あの……。瀬名さんまだ来ていないみたいなんですが……」
「あぁ、アイツなら今日は来ないぞ」
「えっ!?」
「朝から、熱を出して寝込んでるんだ」
昨夜は少々ハメを外しすぎてしまった。引っ越ししたばかりで荷物の片づけも終わっていないうちから盛り上がってしまい、普段は絶対に許さないのに風呂にまで乱入してきたのだ。しかも調子に乗って、風呂場の中で行為に及んでしまい、瀬名が逆上せて倒れてしまった。
理人も多少のぼせてしまったので、二人で冷たいシャワーを浴びてからベッドに直行したのだが、そのせいでどうやら瀬名は風邪を引いてしまったらしい。
「だ、大丈夫なんですか?」
「問題ない。自業自得だからな」
「え?」
きょとんとした顔でこちらを見てくる藤田に同棲していることを悟られたくなくて、理人はゴホンと少し大きめの咳ばらいをして話題を変える。
「何でもない。 そんな事より、瀬名が居ないからって仕事サボるなよ? 何時までもおんぶに抱っこって訳にはいかないんだからな」
「ちぇっ ……わかりました~」
睨み付けたつもりは無かったが、藤田はびくりと肩を小さく震わせ、不満そうな声を上げながら席に戻って行く。
(アイツ、今舌打ちしなかったか?)
藤田はああいうキャラだっただろうか? 少々疑問に感じたが構っている暇はない。
「……同棲してるってこと、藤田には言わないんですか?」
「言う必要ねぇだろ」
近付いて来た本田の言葉を、理人はぴしゃりと跳ね除ける。
元々自分の話をするのは苦手だったし、明らかに瀬名を狙っているとわかる藤田にわざわざ教えてやる義理は無い。
恋人がいる事には気付いてそうだが、それが誰なのかはまだわかっていない筈だ。
「そんな事より、無駄口叩いてる暇があったら仕事しろ。あぁ、藤田に余計な情報吹き込んだらただじゃおかねぇからな!」
「ハハッ、しませんよ。そんな事……部長に睨まれたら怖いですから」
念のために釘を刺すと、本田は苦笑しながらも席に戻って行った。
「たく……」
瀬名は今頃ちゃんと寝ているだろうか? 今朝、擦り寄った胸元は異様なほどに熱かった。 病院に行けと言って家を出て来てしまったが、やはり今日は休んで看病してやった方が良かっただろうか?
パソコンと向き合い、作業をしながらもどうにも気持ちが落ち着かない。
そう言えば、水分はアレで足りただろうか? とか、食事位準備してやった方が良かっただろうか、とか……。
瀬名は普段からあまり体調を崩すタイプではなかったから、つい油断してしまったのだ。まさか、こんな風にあっさり体調を崩してしまうとは思わなかった。
チラリとスマホの画面に視線を送る。何かあったら連絡をしろと言って出てきたが、何も連絡がないのは逆に心配になるものだ。
まぁ、瀬名が大人しく寝ているとも思えないが……。
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