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「具合、大丈夫か?」 「ん……」 顔色が優れない瀬名の体を支えて起こし、背中にクッションを当てて楽な体勢にしてやる。 「食ったら先に寝れるように、身体を拭いてやるから脱げ」 「え? い、いいですよそんなの……」 「病人が遠慮なんてするんじゃねぇよ。汗かいて気持ち悪いだろうが」 クローゼットからシャツを引っ張り出してきてベッドに置くと有無を言わさず着ている洋服に手を掛ける。 瀬名は戸惑う様子を見せたが、抵抗する気力も無いのか大人しく従い、上半身裸になった。パサリと床に服が落ち、身を乗り出した理人が湯で絞ったタオルで丁寧に身体を拭ってやる。 いつも余裕の表情を見せる瀬名が弱っていて甲斐甲斐しく世話をすると言うのは、なんだか新鮮で楽しいし正直嬉しくて仕方がない。 今、瀬名が頼れるのは自分なんだという実感が湧いてくる。 ふと、目が合った。熱で潤んだ瞳にドキリとし誤魔化すように慌ててタオルし絞りなおした。 「あー……その、背中、拭くぞ……」 「はい」 背を向けた瀬名にドキドキと心臓が高鳴る。 瀬名に触れているのは紛れもなく自分の手なのに、まるで別人の手のように感じるのは何故だろうか? なんとなく、いけない気分になる。 理人は極力瀬名を見ないようにして、黙々と作業を進めた。 汚れた服を持っていき、トレイに乗せたお粥を瀬名の側まで運ぶと、スプーンで掬って口元へともっていってやる。 「ほら、あ~ん……」 「自分で食べられますよ……」 「良いから、たまには甘えとけ」 恥ずかしそうに渋々と口を開けた瀬名は、熱々のお粥をハフハフと冷ましながら口に含み、ゆっくり咀しゃくして飲み込んだ。 「どうだ? 美味いか? 美味いだろう?」 「ふふ……っ、はい、とっても」 理人は滅多に料理をしない。だが、瀬名が嬉しそうに笑って口を開けるので、それが嬉しくてついつい甘やかしてしまう。 「理人さん、子供扱いしてません?」 「俺からすれば、お前は充分ガキだがな」 「そのガキに毎晩啼かされてるの誰ですかねぇ」 「なっ、ば……っ今はそんなの関係ないだろうがっ」 ジッと見つめられ、からかうような口調にカァッと頬が熱くなるのを感じる。 真っ赤になって狼狽える理人の唇に、笑いながら瀬名が触れる。 その指先ですら火のように熱い。 「馬鹿な事ばかり言ってないで、もう横になれ」 空になった食器を片付け、瀬名をそっと横に寝かせると、不意に瀬名の腕が理人を抱き寄せくるみ込んだ。 燃えるような体が理人を包み込む。 「お、おい……」 「少しだけ、このままでいてくれませんか?」 熱があり、人恋しくなっているのだろうか。普段の彼からは想像できないほどにしおらしくて、思わず胸がキュンとなる。 「……しょうがねぇ奴だ」 苦笑しながらも、理人は大人しく瀬名の腕の中に収まった。

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