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act15 平穏に潜む
今日は珍しく定時で仕事が終わったため、久しぶりに瀬名と二人で飲みに出かけた。
帰り際、藤田が何やら瀬名にモーションを掛けていたが、華麗にスルーされていて内心ざまぁみろとほくそ笑んでいる自分は相当性格が悪いと思う。
夜の街は久しぶりで、何となく気分がいい。
「あら、いらっしゃい。久しぶりね。二人とも。この間の婚前旅行ぶりかしら?」
「婚前旅行じゃねぇよハゲっ! 何度言ったらわかるんだ」
「やぁねぇ。ハゲてないわよ!! まだっ!」
「ハハッ、まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
相変わらずのやり取りに苦笑いをしながら、瀬名が仲裁に入る。ここへ来ると毎回このパターンだ。そして、いつもの様にカウンター席に着くと、ナオミがすかさず注文を聞きに来た。
「今日は何を飲むの? 取り敢えず、ビールかしら?」
「そうだな。俺はジントニックを頼む」
「じゃぁ、僕も理人さんと同じもので。あぁ、小腹が空いたので久しぶりにナオミさんの手料理が食べたいな」
瀬名が営業スマイルでにっこりと笑えば、ナオミは頬を染めて「任せといて」とウインクをしながら厨房へと戻って行った。
「さすが瀬名だな。オカマも手玉に取るのかよ」
「酷いな。僕が貴方にしか興味ないの知ってるくせに」
瀬名の言葉に思わず心臓が大きく跳ね上がる。コイツはこういう所が本当にずるいと思う。さらっと恥ずかしげもなくこんな台詞を言える奴なんて、きっと世界中探しても瀬名くらいだろう。
顔が火照るのを誤魔化す様に、目の前に置かれたグラスの水を一気に煽った。
「あら、相変わらずラブラブで羨ましいわぁ」
揶揄い交じりの声が響き、二人の間に注文した酒がコトリと置かれる。
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