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「随分遅かったわね。もしかして便秘?」 「違う!」 ナオミによる見当違いな発言に思わず突っ込む。 「理人さん。何かありました?」 「いや、別に大したことじゃないんだが……」 瀬名に問われ、理人は言い淀んだ。 まさか、蓮から連絡があったとは何となく言い辛い。 瀬名に無駄な心配は掛けたくなかったし、探偵を紹介するだけで、真紀との関係が完璧に終わると言うのならそれはとても魅力的な話に聞こえた。 蓮のお願いが何なのか。それだけが気がかりではあるが、いつ相手が襲ってくるのかわからない状況に辟易していた理人にとっては渡りに船。 断る理由も無いだろう。 「ちょっと、理人! 聞いてるの?」 グラスを片手にナオミが理人の顔を覗き込んでくる。 「あぁ、悪い。ちょっと考えごとしてた。なんだ?」 「なんだ、じゃぁないわよ。もぉ、何考えてるか知らないけど……酔ってるの?」 「馬鹿言え、こん位で酔わねぇよ。……少し、考え事してただけだ」 「……」 理人は残っていた酒を一気に飲み干すと、髪を掻き上げふぅと息を吐いた。何かに勘付いたのか不安げな瞳の瀬名を見つめ返し、思わず苦笑する。 「……んな顔すんな。ちょっと、親から電話が入ってただけだから」 「理人さんのご両親……ですか?」 「あぁ。時々気まぐれで掛けてくる時があるんだよ。大した要件じゃ無かったし」 我ながら嘘吐きだと思う。ズルい男だ。自分と家族の仲が悪い事は瀬名もナオミも良く知っている為、それ以上追及してくることは無い。 それがわかってて、親の名前を出すなんて最低だとは思う。 理人は空になったグラスをテーブルに置くと、再び溜息をついた。

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