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「いいんじゃないですか? 花見。楽しそうじゃないですか。行って来たらいいのに」
何と答えようかと迷っていると、横から瀬名が声を掛けてくる。
「すみません。ナオミさんの声よく通るからこっちにまで筒抜けで」
「いや、それはいいんだが……花見だぞ? 花なんて見て何がそんなに面白いんだ」
『やぁねぇ、綺麗なものを見ると心が洗われるって言うじゃない? 風情があるし』
「そういうもんか?」
『そういうもんよ。アンタももう少し風情を楽しみなさいよ。だから、ね? 行きましょう?』
そこまで言われてしまうと言い返せない。理人は小さく息を吐いて「わかった」と答えた。
『ホント!? ありがとう理人!! じゃぁ、待ち合わせ場所とかは後でまたメールで送るわね』
「あぁ、わかった。じゃぁな」
『あ、そうだ! 言い 忘れてた。その日、蓮も来るって』
「……は?」
蓮、という名にぎくりと身体が強張る。横で瀬名がピクッと肩を震わせたのがわかった。
『じゃぁ、そう言う事だから! 楽しみにしてるわね!』
「え、あっ、おいっ!」
一方的に電話は切られ、真っ暗になった液晶を見て唖然とする。
「……理人さん。そのお花見、僕も行っていいですか?」
「えっ?」
隣から聞こえた声に振り向くと、瀬名の真剣な眼差しとぶつかった。彼の瞳の奥にチラリと嫉妬の色が見えた気がしてドキリとする。
「アイツが来るって聞こえましたけど。アイツが来るなら、僕も行きます」
理人さんが心配なので。と言いながらギュッと抱き締められて胸の奥がぎゅっと苦しくなった。
今更、蓮とどうこうなるつもりも無いが、それでも瀬名は蓮の存在を快く思っていないという事がありありと伝わって来る。
それにしても、蓮は一体どういうつもりだろうか? こちらには何も情報を寄越さずに、花見?
蓮の真意が読めないまま、理人はただ、瀬名を抱きしめ返すことしかできなかった。
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