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「……っ」 「……なんてね。冗談だよ」 蓮はそう言うと、パッと両手を上げて離れた。 「な……っ」 「ハハッ、ハトが豆鉄砲喰らったみたいな顔だな。そんなに僕の演技が上手かった? いくら何でも公共の場でそんな事するわけがないだろう?」 クックっと短く喉を鳴らしながら、いけしゃぁしゃぁと言い放つ。 本当に今のは演技だったのだろうか? だとしたら、あまりにも迫真過ぎないか? 唖然として言葉を失っていると、蓮の目が眇められた。瞳に映る冷酷な色が濃度を増し、呼吸をすることを一瞬忘れてしまいそうになる。 「今犯したら報酬の意味がなくなってしまうからね……それは後日の楽しみに取っておくよ」 そっと耳元に酷く淫猥な声色で囁かれ、耳の中を舐られてゾクリと背筋が粟立った。 「よ、よせっ! 悪趣味な冗談は止めろっ」 一体何が彼の本心なのかさっぱり掴めない。未だに心臓がドクドクと早鐘を打っていてなんだか息苦しい。 キッと睨み付けたが、蓮は楽しげに笑うだけだった。 「ちょっと期待しただろ?」 「だ、誰が……っ」 少し意地の悪い微笑みを浮かべながらからかい交じりに囁かれ、思わず顔が熱くなる。 相手のペースに呑まれてはいけないとわかっているのに、どうしても上手くいかない。 何か言い返さなければと口を開きかけたその時――。突然外の方がなんだか騒がしくなった。 「なんだ?」 「……さぁ? 気になるなら行ってみるか?」 普段理人は、野次馬などするような性格ではない。だが、何故だろう。今日だけはなんだか嫌な胸騒ぎが止まらなくて、蓮と共に外へ出た。 駐車場に近づくにつれ、周囲のざわめきが大きくなっていく。皆一斉に同じ方向を向きヒソヒソと何かを話しているようだったが、理人は構わず歩を進めた。 「車上荒らしがあったんだって。 白昼堂々よくやるよな」 「刃物を持った女でしょう? 怖いよねぇ」 そんな周囲を不思議に思いながら小走りで向かっていると、ふと男女の会話が耳に飛び込んできて、理人は思わず彼らの前で立ち止まる。 「おい! その話。詳しく聞かせてくれないか?」 「うわっ、びっくりした。なんだ? このチビ」 理人の声に、二人が驚いた様子で振り返る。チビと言われぎろりと睨み付けると女の顔から血の気が一気に引いていくのがわかった。

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