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帰省(瀬名SIDE)

「姉さん。話したいことがあるんだ」 瀬名がそう切り出したのは、姉の真奈美が以前から行きたがっていた海の見えるレストランでランチを楽しんでしばらく経ってからの事だった。 「なぁに? 改まって。どうしたの?」 「実は、その……。僕、好きな人が出来たんだ」 「えっ!? ちょっと待って!? 初耳なんだけど……! どんな子なの?」 真奈美は驚きのあまりフォークを落としそうになりながら身を乗り出してくる。まぁ、当然の反応だよな。と、内心思いつつも瀬名はゆっくりと口を開いた。 「今の職場の上司なんだけど……。仕事が出来て、頼りになる人でさ。最初は怖い人なのかなって思ってたんだけど、全然違って凄く優しいんだ。ちょっと不器用な所もあるけど真面目で、真っ直ぐで。一緒に居てすごく落ち着く人」 理人の事を語っていく内に自然と頬が緩んでいく。そう言えば、こうして自分の気持ちを姉に話すのは初めてかもしれない。 「仕事が出来る女性って素敵ね。社内恋愛なんて憧れちゃうなぁ」 「……女性じゃないよ」 「えっ?」 「僕が今、付き合っている人は男性だよ。姉さん」 弟から聞かされた恋バナに浮かれていた姉の顔が、一瞬にして凍りつく。 瀬名の口から告げられた突然のカミングアウトに、真奈美は言葉を失い呆然と目を瞬かせた。 そして、たっぷり数秒間思考を停止させた後、無理やり絞り出したような声を出す。 「冗談、よね?」 姉は信じられないといった表情で首を横に振った。 それもそうだろう。溺愛していた弟からの突然の告白。動揺しない方がおかしい。 「冗談なんかじゃないよ。僕は本気だ。本気で……理人さんを好きになったんだ」 瀬名の真剣な眼差しを受けて、真奈美はグッと唇を噛み締めた。まるで死刑宣告を受けた罪人のような絶望に満ちた表情を浮かべている。 瀬名を愛してくれているからこそ、真奈美は弟の言葉を受け止めきれないのだろう。 「急にごめんね? 今すぐに会って欲しいとは言わない。だけど、いつか会うことになるだろうから、驚かせる前に伝えておきたかったんだ」 瀬名の言葉に、真奈美は何も答えず黙ったままだった。 この様子だと、まだ暫くは立ち直ることが出来なさそうだ。瀬名もこれ以上彼女を混乱させたくなかったので席を立つと会計を済ませて店を出た。 梅雨間近の湿った空気が肌に纏わりつき、不快指数を上げていく中、未だに現状が受け止めきれない様子の姉を支えながら歩いていく。 ふと見上げた空にはどんよりとした厚い雲が広がっていた。

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