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これは一体、どういう事だろうか? 瀬名の母親に先に行って中で待っていてくださいと言われたのが十分ほど前。 今、理人の目の前には母親だけでなく、彼の父親だと名乗る人物が並んで座っている。 母親の方には瀬名が事故に遭った時一度だけ会ったことがあるが、父親を見るのはこれが初めてだった。 想像していたよりもずっと若い。年齢は恐らく40代後半から50代前半。 優しげな雰囲気を漂わせた穏やかな男性といった印象を受けた。 自分の記憶が正しければ、父親と瀬名は血が繋がっていない筈だ。 そんな彼が何故、同席しているのか意味がわからない。あまりにもしつこいので、これ以上付き纏うと法的処置も辞さないと言う無言の圧力だろうか? それとも手切れ金を渡すから諦めてくれとか言うつもりだろうか? どちらにせよ理人にとっていい話ではなさそうだと判断し、テーブルの下で膝の上に置いた手をグッと握りしめる。 いつか自分の家族に会って欲しいと瀬名が言っていた。 まさかこんな形で対面することになるなんて考えてもみなかった。 「……そんなに緊張しないで下さい。我々は、貴方を責めるために居るんじゃありませんから」 理人の顔が強張っているのに気付いたのか、瀬名の父親の方が気遣わし気に話しかけてくる。彼の言葉に隣に座る母親も少し困った表情をしながら小さく頷いている。 責めるためでは無いのなら、一体この状況はなんだと言うのだろう? 意味が判らず理人の中で不安が膨れ上がっていく。 「単刀直入に聞きますが、貴方秀一の恋人なのでしょう?」 「……は……」 突然父親が口を開いたかと思えばそう切り出され、理人は目を丸くして固まってしまった。恋人……確かに自分は瀬名とそういう関係だった。だけど、それはもう過去の話であって、今はもう違う。 何が言いたいのか、どう答えて良いものか判らずに返答に困っていると、瀬名の両親は顔を見合わせ、同時に小さくため息をついた。 「鬼塚さんの話は、秀一からよく聞かされていました。たまに電話を掛けてきたと思ったら、二言目にはいつも理人さん、理人さんってあなたの話ばかりしていたんですよ。あの子……」 「え……」 そんな話は初めて聞いた。瀬名が時々実家に電話をしていたのは気付いていたが、自分の話題が出ていたなんて夢にも思ってもいなかった。 「今まで、自分の友人の事ですら話してくれた事無かったのに、口を開けばあなたの事ばかり。だから、一度貴方にお会いしてみたいと思っていたんです」 「……」 穏やかな声でそう話す母親からは、姉から感じるような敵意や悪意は感じない。むしろ好意的と言っても良いくらいで、理人は戸惑いを隠し切れなかった。一体なぜ、今そんな話を自分にするのだろうか? 意図が読めずに黙り込んでいると、今度は父親がゆったりとした口調で話し出した。 「いきなりの事で驚かれるのも無理はない。これでも私は、企業の人事を任されている身でね。沢山の人間を見てきたせいか人の本性を見抜くのは得意な方なんだ。人を騙したり、悪事を働きそうな者は《《見ればわかる》》」 口調は穏やかだが、目は笑っていなかった。真っすぐに見つめられて理人はようやく事態を理解した。 自分は、瀬名の両親に試されているのだ。

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