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自分の気持ちを正直に他人に話すのは苦手だ。特に相手が瀬名の両親であるから尚更緊張してしまう。 一体何処から話していいものか迷ったが、瀬名がストーカー被害に遭っていて困っていた事、自分の昔の古い友人が理人を手に入れるために彼を罠に嵌め、利用していた事。 瀬名が姉に会いに行ったタイミングで、友人と会い復縁を迫られたが断った事、タイミング悪く二人でいるところを瀬名に見られて喧嘩別れしてしまった事――。 思いつくまま胸の内を話していくうちに、瀬名と過ごした時間が次々と脳裏に浮かび上がってくる。 初めて会った日のこと、一緒に食事をしたこと、手を繋いだ事、キスをした事。そして、瀬名に好きだと言ってもらったこと…… どれもこれも大切な思い出で、今でも鮮明に覚えている。 瀬名の事を考えるだけで、愛しさと切なさで胸がいっぱいになり、どうしようもなく泣きたくなった。 瀬名を想えば想うほど、胸が締め付けられるほど苦しくなる。瀬名に会いたい。声が聞きたい。触れたい。抱きしめたい。出来る事ならもう一度やり直したい。 後悔してもしきれない思いが次から次へと溢れて来て止まらない。 だが、その反面、瀬名を傷つけてしまった罪悪感が胸を蝕み続ける。 そんな思いを胸に秘めたまま、時折声を詰まらせながらも話す理人の話を両親はどんな思いで聞いていたのだろう。 理人が話し終わるまで、瀬名の両親は一言も発することなく静かに耳を傾けてくれていた。 「――そう、か……」 全てを聞き終えた瀬名の父親がポツリと呟くもそれ以上何も言わなかった。 重苦しい沈黙が3人を包み込む。瀬名夫妻はお互いの顔を見合わせると、困ったように眉根を寄せて小さく溜息を漏らす。 きっと、彼らは呆れてしまったに違いない。何も言われないのが応えなんだと悟り、理人はキュッと唇を噛みしめて二人に頭を下げた。 「お二人の大切な息子さんを私の身勝手な行動で傷つけてしまい、申し訳ありませんでした。――最後に不躾を承知でお願いしてもよろしいでしょうか? この手紙を、秀一君に渡して欲しいのですが」 理人はポケットから封筒を取り出すと、それをテーブルの上に置いた。 今日もしも会えなかったら、ポストに入れて東京へと戻るつもりだった。こんなものを渡したって、読んでもらえないかもしれない。でも、それでも構わない。 僅かでも彼に自分の想いを伝えることが出来る可能性があるのなら、それに賭けたい。 「……それと、来月7日……約束の場所で待っていると」 「――わかりました。お預かりします」 理人の願いを聞いてくれたのは母親だった。彼女は封筒を手に取ると、慈しむような眼差しを理人に向けた。 その瞳は瀬名の目とよく似ていて、やはり親子だと感じる。 「私は今夜戻ります。これ以上仕事に穴をあけるわけにはいきませんから……」 それだけ言うと、理人は伝票を持って立ち上がる。最後に一目だけでも瀬名に会いたかった。だが、それは叶わぬ夢だと知っている。 もしかしたらもう、彼と会うことはないかもしれない。それでも、自分は瀬名を忘れることなんてきっと出来ない。 理人は、瀬名の両親の顔をしっかりと目に焼き付けるように見つめると深々と頭を垂れ、そのまま振り返ることなく店を後にした。

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