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花火が始まってしばらく経っても、観覧車専用のゲートの前で理人は一人立ち尽くしていた。瀬名の姿を探して、もう何時間になるだろう。境内の前には花火を見ようと大勢の人が集まって人だかりが出来ている。皆、手に飲み物や食べ物を持ち楽しげに談笑しながら夜空に浮かぶ色とりどりの花火に歓声を上げている。 しらみつぶしに探してみても、瀬名の姿を見つけることは出来なかった。 もうすぐ、花火大会が終わってしまう。それでも最後まで諦めたくなくて僅かな希望を胸に抱きつつ、理人は空ではなく人の流れに目を向けて彼を探す。 もしかしたら、こうして待っているのは無駄で、会えないまま終わってしまうかもしれない。そう思うと、無性に悲しくなってきた。 胸が不安で押しつぶされそうになり、息苦しくて唇を開く。 「瀬名……」 もしかすると、この声が届いてひょこっと彼が現れるのではないかと言う僅かな希望が、寂し気に彼の名を呼ばせた。 だが、いくら待っても彼が現れる気配はなく、理人の気持ちは暗く沈んでいく。 不意に頬に冷たい雫が滴った。視線を上げると、暗い空から糸のような雨が静かに降り注いできた。それは見る間に濃くなって辺り一帯を包み込んでいく。 会場にどよめきが広がり、次第に落胆と諦めの声に変わっていった。 突然の雨で慌ただしく周囲が帰路に着く中、それでも理人はその場から動けずにいた。雨脚はどんどん強くなっているが、まだ我慢できない程ではない。 近くのコンビニか境内で一旦雨宿りでもと思ったがもしもその間に瀬名がやってきたらと思ったら身動きが取れなかった。 この雨だから、多分瀬名は来ないだろう。自分も早く戻った方がいい。雨は土砂降りになってしまっている。ずぶ濡れになって待ち続けて。それで風邪でも引いたら会社にだって迷惑が掛かる。 そう、頭の中ではわかっていた。それなのに動けない。歩き出そうと思っても足は頑固に固まったままだ。 あと少しだけ。もう少し――。 「あの……、雨が止みそうにないので電気、落しますよ」 「……ぁ、はい。すみません」 祭りの運営スタッフらしき人物に声を掛けられ、慌てて理人は道を開けた。いつの間にか照明は全て落とされており、ぽつり、ぽつりと佇む電信柱の小さな青白い光だけが等間隔に並んでいる。 やはりもう、無理なのだろうか。これが彼が出した答えなのだとしたら受け入れなくてはいけない。 彼の姿を一目でいいから見たかった。会ってあの温もりに包まれたい。 瀬名の事を思うと身体が熱く火照る。彼の指が、唇が、優しく囁くあの声が、頭にこびり付いて離れない。 「瀬名……っ」 いくら求めても返答はなく、降りしきる雨が無情にも理人の身体を打ち付けていく。 瀬名に会いたい。会いたくて、会いたくて堪らない。 込み上げてくる思いは涙となって、今にも溢れだしてしまいそうだった。必死に堪えて、それでも堪えきれなさそうで、拳で目を押さえつけた。もう、我慢できない。理人は嗚咽を押し殺すと、唇を噛みしめ肩を震わせて静かに涙を零した。 ――その時だった。

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