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「……帰りましょう。僕らの家に。……このままだと風邪ひいちゃいますし」
そう言われて、改めて自分達の格好に気が付いた。降りしきる雨のせいでスーツやシャツはびしょ濡れだし、ズボンは泥で汚れて酷い有様だ。
周囲に視線を巡らすと、雨はいつの間にか小康状態になっていた。
同時に此処がつい先ほどまで祭りのあっていた会場であった事を思い出し、急に羞恥心が込み上げてきたが、幸い先ほどの大雨で自分たち以外に人の姿は見えなかった。
少しほっとして顔を上げると、ほんの少し顔の角度を変えただけでまた唇が触れてしまうんじゃないかと思うほど間近で瀬名が顔を覗き込んでいる。
慌てて離れようとするも瀬名は離してくれなかった。
それどころか、首の後ろに手を添えて理人の唇をするりと寄せてくる。
「瀬……っ!!」
名前を呼ぼうとしたが、唇が塞がれていて声が出せない。抗議するように胸板を叩くと、名残惜しそうに唇を離して瀬名は少し困ったように笑った。
「ごめんなさい。あんまり可愛い顔していたんで、我慢できなくて」
瀬名の手が頬に触れる。
たったそれだけの事なのに、身体の奥底から言いようのない感情が湧き上がってくるのを感じて、頬がカッと熱くなる。
「……馬鹿」
そう呟くのが精一杯だった。瀬名の指先が理人の頬から顎のラインをなぞるように滑っていく。
ゾクゾクするような感覚が背中を駆け上がり、理人は小さく身を捩らせた。
瀬名は理人の頬に手を当てたまま、じっとその瞳を見つめている。
「――やっぱり、ホテルに行きません? 家まで我慢できそうにない」
熱を孕んだ声色に耳元でそう囁かれ、鼓動がいっそう跳ね上がる。
瀬名が何を言っているのか、わからないわけがない。
一瞬躊躇いを見せた後、理人は恥ずかしそうに俯き、コクリと小さく頷く。
「俺も……早くお前が欲しい」
そう言って見上げると、瀬名の喉仏が上下するのが見えた。
参ったな。と呟きながら瀬名の腕が理人の身体に回され、ゆっくりと地面から引き起こされる。
瀬名の手に促されるまま歩き出そうとしたその瞬間。
直ぐ近くの雑木林の方からパキッと枝を踏みつける音が聞こえた。
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