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「数日前、僕宛に封筒が届いてたんだ。宛名は書いてなかったけれど、中身はUSBが一つ。綺麗な男性の文字で一人の時に見るようにと手紙が添えられていたから、夜中にこっそり再生してみたんだ」
「…………」
瀬名の言葉に、理人は思わず頭を抱えた。
あの日、あの部屋で動画撮影が出来た人物と言えば、一人しかいない。
絶対に撮影はするなと念を押していた筈だが、やはり一部始終が撮影されていたのか。
幸か不幸かその動画が理人の身の潔白を証明するきっかけになったようだがどうにも複雑な心境だった。
「姉さんがちょうどお風呂に入っていてくれて助かったよ。僕宛の郵便物、全部姉さんが持ってるって父さん達から聞いたよ? それに、理人さんは僕に会うために家まで来てくれていたそうじゃないか。おかしいと思ってはいたけど、嘘を吐いてまで引き離そうとするなんて酷いじゃないか」
「わ、私は……秀一の為を想って……」
「僕の為?」
「えぇ、そうよ。秀一には普通の家庭を築いて欲しいの。一時的な感情に流されて将来を棒に振るような真似をして欲しくない」
さも当たり前と言わんばかりの真奈美の態度に理人は思わず眉根を寄せる。瀬名に幸せになって欲しいと願う気持ちはわかる。だけど、それで瀬名本人の意思を無視して良いはずが無い。
それに、彼の話が本当だとするならば、自分が門前払いを食らっていたのも瀬名が会いたくなくて姉に頼んで拒絶させていたわけでは無く、彼女の独断と偏見によるものだったという事になる。
「おい、てめぇ」
「な、なによ!」
ドスの利いた声で凄まれて、真奈美がたじろぐ。
「瀬名の為、なんて都合のいい言い訳付けて理想の弟像を押し付けてるんじゃねぇよ」
「……っ!!」
彼女の言動を聞いていると、まるで自分の両親と話をしているような気分になって来る。弟の為だと言いながら、結局は瀬名の話に耳を傾けてはいない。
「そんなの瀬名に失礼だろうが。瀬名は瀬名なんだ。他の誰でも無い。お前が勝手に作り上げた瀬名の虚像と本物を一緒にすんなよ」
瀬名の姉の顔がみるみると歪む。今にも泣き出しそうな顔で、震える唇で何かを言いかけたが、結局何も言えずに唇を引き結んだ。
「……姉さん。僕が混乱していた時にずっと側に居てくれたことは感謝してる。……昔もよく、家に居たくなくて怖くて逃げだした僕を迎えに来てくれてたよね。でももう、あの頃の僕じゃないんだ。自分の幸せは自分で決めたいんだよ。僕が今一番幸せを感じられるのは、この人と一緒に居る時だから……」
グッと肩を抱かれて引き寄せられ、理人は頬が熱くなるのを感じた。
瀬名が愛しそうに真っすぐ自分を見ている。
恥ずかしいけれど、それが堪らなく嬉しくて躊躇いがちにそっと瀬名の背に腕を回した。
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