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第24話 温もり
次の日、陽向のもとを訪れたのは馬酔木だった。
「楓、は?」
問いかけた陽向に馬酔木は仏頂面で盆を陽向の膝に載せながら首を振った。
「戻ってきてない、ってこと?」
「そうじゃない。けど、ちょっと無理したみたい。本調子じゃないから朝飯届けてやってって言われた」
「そう、か」
俯いて箸を取り上げる。けれど食欲がわかない。なんとか食べようと口に入れるが一口も食べるともうその先が進まない。
「食欲ねえの?」
馬酔木が今日も扉まで後退しながら問いかけてくる。いや、と短く答えるがやはり少しも食が進まない陽向に、馬酔木は頭の後ろで手を組みながら言った。
「残すなら俺が食べるわ。長が作った芋の煮っころがしすごくうまいもん」
「これ、あの人が作ってるのか?」
びっくりして尋ねると、馬酔木はあきれ顔をした。
「そりゃそうだろ。長、一人暮らしだし」
「いや、でも長だろ? 側仕えの人とか、いる、よな?」
「あんたの里ではどうか知らないけど、うちの里ではそういうのはないの。みんな自分のことは自分でやる。今日だって調子悪そうにしながら飯炊きしてたよ。それなのに残すとか、うわ〜って感じ」
舌を出し非難する馬酔木の顔から陽向は膝の上の器に目を落とす。粥が中心の食事を出してくれていたが、ここ最近、陽向の回復を見てなのか献立に固形のものが少しずつ用意されるようになってきていた。今日は芋の煮つけだ。それでも芯が残らないようほっくりと煮られていることがわかる。
あの人が。
箸を取り上げ、食事を始めた陽向に馬酔木が、残せばいいのに、と唇を尖らせるのを聞きながら陽向は食べた。
あんなにいつも冷静そのものの顔をしているくせに、作られた料理は温かくてどうしようもなく優しい味がして、なぜか涙が出た。
「泣くほどうまかったみたいって伝えておくよ」
食べ終わった皿を手に里へ戻ろうとしながら、馬酔木が面白そうに笑った。
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