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第92話 光

 一層激しく鳥籠が振動する。とっさに彼の肩を腕に抱え込むが、揺れは大きく、あっと言う間に横倒しになった。壁だと思っていたものが床になり、陽向はいてて、と呻きながら腕の中の楓に声をかける。 「どこも打ってないか?」 「平気」  言いながら楓が身を起こす。ふっと気づくと揺れは収まっていた。  と。 「光」  楓がかすかに声を漏らす。その声に引かれるように頭上を見上げた陽向は瞠目した。  細く白い一本の筋が頭上に刻まれていた。かすかな本当にかすかな線だったそれが、機械音と共に徐々に徐々に広がっていく。  ぎいい、と金属がこすれ合う音が、次いで、がたり、と硬質な音を立てて頭上にぽっかりと穴が開いた。  広がっていたのは真っ黒い天井。そして。 「生きてる?」  声と共にひょい、とこちらを見下ろしたのは、時見だった。  肩から滑り落ちた長い栗色の髪をひょい、と背中へと流す彼女を陽向は唖然として見上げる。  白い長衣は変わらない。けれどその顔に違和感がある。 「あんた……少し、老けた?」  問うと、楓が思い切り陽向の脇腹を突いた。だがその仕草で楓もそう思っていたことがわかった。  時見は陽向の言葉に一瞬虚を突かれたような顔をしてから、豪快に笑いだした。 「元気そうでなによりだ。とりあえず出ておいで」  そう言って手を差し伸べる。顔を見合わせる陽向と楓に、ほら、と彼女がさらに促す。 「楓、先に行って」  でも、と言いかけた楓を陽向は立ち上がらせる。それでも迷う素振りを見せる楓の背を押すと、彼はそろそろと手を伸ばした。その彼の腕をぐい、と時見が引く。 「次、陽向くんも」  楓を引っ張り上げた時見が陽向に向かっても手を差し出す。

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