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1-4 ハロウィンの日、お食事

   料理もあらかた終わり、皿に盛り付けリビングへ運ぶ。暖かくおいしい香りを漂わせる数々に少年はその赤い瞳を輝かせている。 「食べていいんですか?」 「半分は、だよ。それ食べて寝て、朝には家に帰るように」  おそらく両親のことや家のことを聞いてもはぐらかされて終わるだろう。警察が問い詰めてきたら言い逃れはできないだろうがこちらも正直に答えていくしかない。  腹を決め、ラフなTシャツに着替え、恭隆は楽しみにしていた晩酌を始めることにした。 「……いただきます」つられるように少年もスープを口にする。どうやらおいしかったようで一言もしゃべることなく食べ続けている。 (随分と腹を空かせていたんだな……親も承諾している家出ってなんだ)  それこそ勘当か何かだろうか、恭隆はビール缶を開け、のどを潤す。  テレビはつけず、恭隆も話すことなく食べ続けた。元々一人暮らしで話しながら食べるということはあまりない。  少年の方に目線を向ければ、どうやらベーコンが気に入ったようだ。育ち盛りで肉を欲する気持ちはよくわかるが、サラダを食べるよう促せば、渋々と言った様子で口に運んでいく。典型的な野菜嫌い、と言うわけでもなさそうだ。 (ちゃんと食べられることは偉いな……)  感心しながらも、彼の細身の身体を見れば、もう少し肉がついていてもいいだろうと考えてしまう。  夕食を取り終わり、彼はうとうとと舟をこぎ始めた。寝る前にシャワーを浴びて来てくれと指示を出し、客用の布団の用意をする。しばらく出していなかったから、予備に買っておいた新品のシーツをかける。 (ここまでする義理があるかと言われると、ないが……まぁ、悪いことをしているわけではないし)  少年も、家のことさえ言わなければ大方素直に答えてくれる。夕食にも文句ひとつ言わず、嫌な顔もしなかった。むしろおいしそうに食べる顔は恭隆の心を満たしていく。 「少しでもやましいことを考えていたのが申し訳なくなるな」  寝床を整え、風呂上りを待っていると、自身も今までの疲れが出てきたのか眠くなってくる。 (そういえばハロウィンの準備にクリスマスの企画……大分疲れがたまっていたからな)  先ほど敷いた布団から離れ、リビングに戻る。先ほどまで彼が座っていたため、人肌で温かい、と思ったがこの寒さからはすぐに冷えていたようだ。 「まぁいいか……シャワーから出るまで、出るまで……」  横になれば勝手に瞼が下りてくる。どっと襲ってきた疲れは、近づいてくる足音を気に留めず眠りへといざなう。  ひたり、ひたりと足音は小さい。  規則正しい寝息を立てる恭隆は、横向きになり起きる気配を見せない。  シャワーから上がり、恭隆から借りた大きめのシャツとズボンを半ば引きずるように、少年はリビングに戻ってきた。髪が濡れたままの少年は、じっと恭隆を見つめる。そっとその傍に立ち膝の状態で座るも、彼は起きなかった。  首元ががら空きなシャツを着ている恭隆は体つきもよく首元も太い。健康的で、血管も綺麗に浮いて見える。  ゆっくり、息がかからないように細心の注意を払いながら、少年は首元に近づき、唇を添える。細い髪に隠れその表情ははっきりとうかがい知ることは出来ないが、笑みがこぼれる。 「……ごちそうさまです」  口を小さく開けば、二つの鋭い牙が見え、恭隆の首元に刺しこまれ――。

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