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2-1 翌日、夢じゃなかった
11月1日、ベッドから覗く外は秋の様子を見せてくる静かな朝だ。昨日のハロウィンは夢だったのではないかと、隣の部屋を覗きに行く。
自身のTシャツを着て眠っている白と黒の髪色をした少年が布団にくるまり眠っている。彼がそこにいるということが、昨日の出来事が夢ではなかったことをありありと見せてくる。
「夢じゃ、ないんだな」
自身の家の庭に倒れていた、吸血鬼の恰好をした少年はハロウィンの仮装ではなく本物の吸血鬼だった。眠る前に首輪は外しているが、自分の血を吸わせる代わりに趣味であるプレイにつき合わせるのも、夢ではないのだ。
「……まずは朝食か。でも、食べるかな」
少年、ユーヤの食事は人間の血。昨晩血を吸っているが、朝も吸われることになるのだろうか。今日は土曜日で仕事はないけれども、三食と吸われれば流石に貧血になる可能性だってありうる。
人間の食事では腹が膨れないことは、昨日の時点で把握済みだ。
「起きるまで時間があるだろうし、まぁ作ってみてだな」
ユーヤを起こさぬよう、静かに寝室を出ていく。時計を見ればすでに7時を回っており、朝練だろうか、部活へ向かう学生たちの姿が見えはじめた。
洗面台で身支度をし、新聞を取りに行ったあとにようやっと朝食の準備だ。昨日のうちにご飯を炊いておけばよかったと若干の後悔をしつつ、予備で買ってある食パンを焼いていく。次いでサラダと出来合いのコーンスープを温めはじめる。
台所にも太陽の光が差し込み、気持ちの良い朝だと仰いでいれば、恭隆ははたと思いだす。
「吸血鬼って、確か陽の光駄目じゃないか?」
物語上、しかもほぼ上辺でしか見たことがなかったが、苦手なものの代表格に日光があったはずだ。それに、昼間は起きず夜に行動をするようなことを、おぼろげながらに思い出した。
「起きてくるかすらわからないな」
ぐつぐつと煮え立つ音が耳に入る。慌てて火を止め、リビングなどにあるカーテンを閉め始める。バタバタと足音が響いたのだろう、寝室から小さな足音が聞こえてきた。
「おはようございます、ヤスタカさん。朝早いんですね」
「あ、ああ、起きて大丈夫なのか?」
先ほどの疑問を、寝ぼけ眼をこするユーヤに尋ねてみる。テンポは遅れたが、ユーヤはしっかりと答えた。
「昨日食事をしたので、元気です!」
「いや、そうじゃなくて……日光の方」
ユーヤは閉められたカーテンを見て、納得がいったように頷いた。恭隆の方に視線を戻し、にこりと笑う。
「食事を終えた後は、ある程度耐性がつくんです。おなかが空いてくると、段々辛くなります」
それでもやはり、好き好んで陽の光を浴びようとはしないようだ。恭隆はなるほどとつぶやき、安心したところで出来上がってきた朝食を皿に盛り付け始める。
「朝食……食べるかい?」
「いいんですか!? やったぁ!」
皿に盛り付けられた料理を見て、ユーヤの目はらんらんと輝き始める。大きいシャツは、ばさばさと音を立て、時折白い肌をチラつかせる。もっとも、ズボンもウエストがあっていないためにずり落ちていく。
白い肌はつやがあり、柔らかそうな肉は必要以上についているわけではなく、すらりと長く伸びている。細く美しい曲線を上へ眺めていけば、掴みがいのありそうな腰に、薄い胸が見える。さすがにシャツに隠れたが、まだ未開発であろう小さな飾りも、その奥に見えるのだろう。
恭隆の視線に気づけば、ユーヤは頬を紅潮させ、いそいそと裾を上げていく。
(……興奮しすぎだな)
一人心の中で反省を重ね、リビングへと向かっていく。ソファーに座り、ユーヤはテーブルに置かれていく料理に釘付けだ。恭隆も座椅子に腰かけ、手を合わせる。
「いただきます」
「い、いただきます」
恭隆の真似をするように、ユーヤも一緒に手を合わせる。
(こうやって、誰かと一緒に朝食を取るのも久々だな)
頬のゆるみが、無意識に出る。いちごのジャムが塗られたパンが、いつもより甘く思えた。
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