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2-4 翌日、おでかけ
布団や拘束具の入った箱を片付けながら、恭隆は尋ねたいことがあった。
「そうだ、これから服を買いに行かないか? もう少し日が落ちてからでもいいけれど。昨日はハロウィンだったからいいけど、さすがにあの格好で街は歩けないし」
「……でも、僕お金ないです」
「そのぐらいは出すよ」
バスを使えば駅ビルもある、またデパートもあるため、食料品も併せて買ってこられるだろう。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
恥じらいながらも、はにかんだ笑顔を見せるユーヤは、今まで付き合ってきた恋人たちとは違うように、少し思えた。
結局、出かけるのは午後になってからとなり、軽い昼食を取り終えた後、身支度を始める。ユーヤが着ていた服に、恭隆のパーカーを羽織ってもらうよう話した。
髪色が少し派手に思われるため、出来れば隠せた方多がいいだろう。
案の定、パーカーは大きく、袖はすっぽりとユーヤの手を隠してしまった。
「さすがにあのシャツだけでは寒いし、あの黒いマントは派手だ。我慢してくれ」
恭隆は慰めるように優しく言い聞かせてみる。ユーヤは特に気に留めていないようで、むしろ二回りほど大きい服が新鮮で浮足立っている様子だ。
「……楽しそうならよかったよ」
「修行に来て、初めてのおでかけなんです。いつもは、こそこそしているので……」
「そうだったのか……」
ハロウィンは仮装している人たちであふれかえるが、日常はそんなことは滅多にないだろう。日中に出歩きづらく、また変装をするための服がなければ、人間たちと同じようにはいかない。
「修行を終えれば、また違った生活ができると思うんですが……まだまだ先です」
家の鍵を閉め、バス停までの道を歩いていく。はぐれないようにと手をつなぐが、その指先は冷たかった。
「どのくらいかかるものなんだ?」
「早くて……20年?30年?」
「そんなに!?」
人間の感覚で言うならば、人生の間でも大部分を占めるほどの時間をかけることになる。ユーヤ自身が百歳を超えている以上、認識のずれはあるだろうが、それでも長く時間がかかるものなのだろう。
「僕の勝手な想像なので、もしかしたら、もっと早いのかもしれません」
「学校のように、カリキュラムが決まっているわけではない、んだろうな」
恭隆の声がしぼんでいくのが分かると、ユーヤはわざとらしく声の調子を変え、明るくふるまう。
「でも、一人前の証は、はっきりしているんです!」
「証?」
聞き返そうとした時、ちょうどバスが到着した。バス停までまだ距離があり、全速力で走ればバスは待ってくれ、何とか間に合った。整理券を二枚分取り、ユーヤを座るように促す。
乗っていた乗客は「間に合ってよかったわねぇ」など優しく声を掛けてくる。バスとしても、定刻より早く着いていたようだ。乗客と運転手にすいません、と軽く会釈をして、席に座る。
「……話は、あとで」
「は、はい……」
全力で走ってきた二人は息を整えるまでに、少し時間がかかった。いつもバスに乗るときは雨の日だけで、時間に余裕をもって家を出るため、バス停まで走ることは無かった。
(……学生の時と比べると、体力減っているな。少し、鍛えた直した方がよさそうだ)
一つ息をつきユーヤの方を見る。バスは初めてだったようで、緊張気味に座っているのがよくわかる。途中、信号で止まればきょろきょろとあたりを見渡し、何が起きているのか不思議そうに恭隆を見る。
「信号だよ」
小声で耳打ちをして車窓から見える信号を指させば、ユーヤは丸いライトが赤くなっているとつぶやいた。
「青になれば進むよ」
恭隆の言葉通り、信号が青になれば滞りなくバスは再び動き出す。安心したのだろう、ユーヤはそのまま窓を見て景色を楽しんでいるようだった。
(そういえば、耳があまりとがっていないようにみえる)
寝相を見ていた時もそうだが、外見からは吸血鬼らしさがあまりうかがえない。さきほど耳打ちをした時も、何も思うことは無かった。
じっとユーヤの方を見ていたからか、視線に気づいたユーヤは頬を膨らませ、恥ずかしそうに恭隆の方を振り向き睨んだ。
(そういえば、朝は少し……)
朝から行うにしては恥ずかしい行為をしていたことを、すっかり忘れていた。ユーヤの中ではまだ、その時の熱が残っているのかもしれない。
ユーヤの反応から変に意識をして、恭隆は視線をそらそうとスマートフォンを取り出した。ニュースを見れば、経済や国際情勢を伝える傍ら、最近都内で起きている誘拐事件について伝えていた。
(確か二週間前からだったか? まだみつからないのか)
夜中に起きる犯行とあってか、目撃者も少なく、ただの失踪かと思われていた事件は連続性を持ち、荷物などが置き去りになっていることもあって誘拐事件へと名を変えた。それも、被害者は老若男女を問わない。
(普段からあまり残業をさせないようにしているが、うちから近い時もあるし、気をつけるよう言っておくか)
車内のアナウンスが、終点の最寄り駅につくことを告げてくる。ユーヤに降りることを伝え、二人分の料金を払い、バスを降りた。
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