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3-1 三連休最後、朝のおさんぽ

 三連休の最終日の朝は、あいにくのくもり空。日差しが苦手なユーヤにとっては、格好の散歩日和だった。  ゆっくりと家の周りを歩きたいと、恭隆にねだり、二人で散歩をすることにした。髪と口元を隠すため、寒さをしのぐ名目で、昨日買った帽子とマフラーをつけている。  恭隆の自宅は、彼の家である本条家が長く暮らしていた土地であるが、恭隆自身は都心から移り住み、数年前に引っ越してきたばかりだった。その頃は仕事も忙しく、時間を気にせずに散策するのは初めてだ。  外に出ると住宅街はまだ静かで、子どもたちの声はもちろん、近所同士の会話も聞こえてこない。車やバイクが通る音が大通りの方から聞こえ、少しずつ街が動き出しているのが分かる程度だ。  10分ほど歩けば、丘のある公園が見えてくる。くもり空だが、ウォーキングをする人や、ベンチに座っている人も見える。公園を見つければ、ユーヤの足が止まり、じっとその方を見つめている。 「寄ってみても、いいですか?」  高いところが好きなのだろうか。せっかくユーヤが言ってきたことだ、叶えてやりたいと恭隆は承諾し、一緒に階段を上る。それなりの段数を上れば、辺りを一望できる見晴らし台や温かみのある木調の休憩所、そして、丘の頂上には石碑があった。  一通り見渡した後、ユーヤが石碑に近づこうと走り出した時だった。冬に向かう季節の北風が冷たく吹いてくる。二人は思わず身震いし、思わず互いを見つめた。  寒い、の一言が出る前に、後ろからしわがれた声がした。 「今日は少し荒れているねぇ」  声のした方を、二人が振り向く。白いひげをたくわえ、杖をついている老人がそこに立っていた。 「ああ、元木さん。おはようございます」 「おはよう、恭隆くん」  すでに顔見知りだったようで、恭隆は縮こまった背を伸ばし、頬を緩めた。ずっとこの土地に住んでいる人で、恭隆の祖父の代からの知り合いだそうだ。 「恭隆くん、そちらの子は?」 「知り合いの子なんですが、数日前急に預かることになって……。ユーヤといいます」 「ほう、ゆうやくんだね。はじめまして」 「……はじめ、まして」  穏やかにしている恭隆とは変わり、ユーヤは緊張した面持ちで元木を見る。先日の田崎への反応といい、人見知りをする方なのだろう。 「素直な子だねぇ。困ったこととかあったら、遠慮なく言ってくれ」  背をかがみ、ユーヤの目線に合わせ元木は微笑んだ。その言葉に、ユーヤは小さく頷いていた。 「石碑を見るなら、風が落ち着いていた時の方がいい。あそこは高台で、風が吹くととても冷える」  ゆったりとした話し方に、皴をきざんだ柔らかな笑みは、ユーヤの緊張を少しずつほぐしていく。こわばっていた頬は緩み、意識は石碑の方に向かう。 「何が書いてあるのですか?」 「来杜(きもり)――この地域に伝わる、昔ばなしさ。恭隆くんは知っているかな?」 「えっと、俺は知らない話、かと……」 「そうかそうか、話すにも恭隆くんは忙しいからなぁ。風が落ち着いているときに、また来るといい。私もよく知っている話だ。なに、話し相手が欲しいだけだよ」  元木はそう言うと、帽子越しにユーヤの頭を撫でる。石碑のことを聞かせてくれるとあってユーヤは上機嫌で大きく頷いた。  恭隆も、ユーヤと地域の人達が顔見知りになっておいた方がいいと考えていた。元木も言っていたが、自分が忙しくなったときに、ユーヤが誰かに相談しやすい環境を作る必要があるだろう。  また、恭隆の会社の場所なども知っているものが多いため、連絡もつきやすい。  学校とか病院とか、そういった心配はあるが、聞かれてから考えることにした。 (さすがに吸血鬼と言われて、すぐには信じられないだろうしな)  その時はお願いしますと恭隆が声を掛ければ、元木も嬉しそうに頷いた。

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