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4-4 仕事再開、探検しました!

 リビングを出て、廊下に出ると今まで気づかなかったのが不思議なくらい、近くに階段が見える。二階建てだったことを今日初めて知ったのだ。 (一日目は、ヤスタカさんの部屋で、それからは客室を使っていたから……)  恭隆が階段を上がるところも見たことがない。階段のことを知らせなかったことから見ると、昇っても問題は無いのだろう。  恐る恐る、ユーヤは階段の一段目に足を乗せる。きしむ音が響き、壊れないか心配になる。この家が出来てから何十年と経っているのだろうか、思ったよりも古い家なのかもしれない。    ギシ、ギシと音を立て上げながらも昇っていくと、左右に廊下が伸びている。いくつかの扉が並んでおり、左側の廊下を進み一番手前の扉を開けば、物置のようだった。恭隆しか住まなくなった大きな家では、多くの部屋が主を失っているのだろう。 「……おじゃまします」  室内に入れば多少の埃っぽさがあるが整理整頓はしっかりとされているようだ。棚の中には多くのファイルが並べられており、中に描かれていたイラストを見るとお菓子のパッケージが描かれていた。 「会社の資料だ……」  ファイルの中身を見ていくと、丁寧な字体で商品についてのメモが書かれていた。アピールや製造コスト、工場における工程などが見やすくも余白を埋め尽くすほどに多く見える。ファイルの始めに書かれた日付から見ると十年ほど前のようだった。 (ヤスタカさんの、かな……)  入社してすぐに社長になったわけではないだろう。ファイルの文字からにじみ出るように、仕事に対する熱意を感じる。  他のファイルも同様に、会社に関わる書類が収められている。ユーヤはファイルを棚へ戻し、棚からそっと離れた。見る頻度が少なくなったとはいえ、大事なものだろう。無くしてしまうなどしたら申し訳ない。  物置となった部屋から離れ、他の部屋へ入っていく。古くなった家具や本が並べられている部屋や、ベッドと棚しかない部屋など様々で、この家は長く人が住んでいたことをうかがい知ることができた。  ユーヤは暇つぶしになるだろうと、何冊か本を持って一階へ降りることにした。ひらがなが多い本と、言葉の説明が載っていた分厚い本――辞書を腕に抱えていた。落とすことのないよう、リビングまでゆっくり歩き、ソファーに座る。柔らかく包み込まれるようなソファーはユーヤのひそかなお気に入りになっていた。  ユーヤはひらがなが多い本――絵本を読みはじめる。絵がかわいらしく、文章はそこまで多くない、ユーヤには読みやすく次々と読破していく。内容はなぜか主人公が鬼を倒す物語が多く、桃太郎や一寸法師などを読んでいけば、ユーヤは少し複雑な気持ちになっていった。  正確に言えば、ユーヤは鬼ではなく吸血鬼だ。しかし、漢字にすると「鬼」という文字がついている。物語に書かれている鬼と同じ恐れられる存在なのかもしれない。 (悪者になるのは、仕方ないのかな……)  いつかは物語の鬼のように対峙される運命をたどることがあるかもしれない。 (怖くなかったのかな、ヤスタカさん)  出会いの時、吸血をしようとしたら「真似事」と言い、本元だと知った時も、少し考えたあとに家族のことについて聞かれたことを思い出す。恐怖の表情をしなかったように見えた恭隆の顔に、今更になって疑問がわいてくる。 (……でも、吸血鬼を見たのは初めてっぽいしな)  順応性が高いというべきか、頭の回転が早くすぐに「交換条件」に頭が行っただけなのか、真相は本人に聞いてみないと分からないだろう。  恭隆のことを一度頭の隅に置き、ユーヤは辞書を手に取った。小学生が使う用の辞書でだいぶ年季が入っているように見える。やはり漢字が多く読みにくいとも思ったが、振り仮名がついているため、ゆっくり時間をかければ問題はないだろう。だが、小さな文字に目が疲れていき、ユーヤはうとうとと舟をこぎ、ソファーに寝そべり始め、いつの間にかぐっすりと、寝息をたてはじめた。

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