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6-3 非日常、嵐の前に。

   留守番も三日目に突入し、ユーヤは暇をつぶすための探索にも一通り飽きてしまっていた。もちろんまだ見たいところや探していないものもあるが、そう毎日家探しするのも気が引ける。だからといって、恭隆の帰りをただ待つのも、もったいないと感じてしまう。 (体調が心配だけれど……何をしてあげたらいいのか分からない)  休みの日があるのは知っているが、その日に恭隆がちゃんと休むかまではユーヤには想像がつかない。それに、その日がいつ来るのかをユーヤは知らなかった。  落ち着かずうろうろと玄関が見える廊下を歩いていれば、ガチャリとドアが開く音が聞こえた。走って迎えに行けば、昼間には珍しい、恭隆の姿が見えた。 「おかえり、なさい……?」 「ああ、ただいま。……みんなに帰った方がいいって言われてね。休みながらになるけど、ユーヤの話を聞きたいな」 「大丈夫、なんですか? その、体調は……」 「うん、会社出た後に気分転換もできたし」  ユーヤがよくよく見れば、朝よりは顔色もよく、足取りもしっかりしていた。しかし疲れはまだ残っているのだろう、シャツのボタンを緩めながらもソファーに深く腰掛ければ今にも眠りそうだった。 「えっと、お茶、用意しますか?」 「買ってあるペットボトルがあるから大丈夫、ありがとう」  恭隆はカバンからペットボトルを取り出して口に含む。安心したユーヤは、向かいになるようにして座った。 留守中に見つけた、会社にまつわるファイルのことや、洗濯機の音の大きさのこと。本棚からいろいろな本を見つけ、絵本と辞書を読んでいること。 一番時間をかけて話したのは、一昨日元木から聞いた昔話だ。山に住む鬼と人間の話は、まるで自分たちのようだと、ユーヤは楽しそうに話す。恭隆に聞いてもらえるのと、ゆっくり彼と過ごせることがユーヤにとってどれだけうれしいかが、顔によく表れていた。 「その昔話、俺も小さいころに聞いたことがあったな」 「そうだったんですか?」 「ああ……。まぁこの家自体が元々両親から譲り受けたものだから、地元といえば地元だったんだろうな。うちも昔から商いをしていたから、もしかしたらうちとも関わりがあるのかなーなんて、兄弟で話してた覚えがあるよ。ここの土地の話だったんだな」 『もし、ちかくに鬼がいたらどうする? ぼくは、ともだちになりたい!』 『あぶないかもしれない、まずはあいさつをしなければ』 『うんうん、あいさつをして、いっしょにあそぼう!』  懐かしい、幼いころの会話が脳裏によみがえってくる。話自体は詳細まで覚えてなく、来杜由来の話だと結びつかなかったのだ。どこの商家の息子とも書いてなく、祖父たちもその点の言及はしてこなかった。 「その人達と同じように、俺たちも長く一緒に住めると良いな」 「へへ、僕もそう思いました。ようやっと一週間がたつくらいなのに。不思議ですね」 「きっと、相性がいいんだろうな。俺たちは」  また一口飲もうと思った手を止め、ふと昼に話した荒川のことを思い出す。彼ともまた話の合う仲だが、なぜだか彼には含みがあるように思える。もちろん、会社を通じての知り合いなのだからユーヤとは違うことはわかりきったことなのだが。  不思議そうに見てくるユーヤになんでもないと返した後、今日の礼を荒川に返そうと思い、カバンからスマートフォンを取り出そうと探したが、どこにもない。  社長室に置き忘れていることに、ようやく気づいた。 「……しまった。会社戻らないと」 「え? もう……えっと、もう夜ですよ」  時計の針はすでに夜六時を指しており、この時期は陽が落ちるのも早く真っ暗だ。夜は危ないと話したばかりなのにとユーヤは心配そうに見てくるが、恭隆は焦っていたためユーヤの様子を見る間もなかった。 「すぐ戻ってくるよ、流石にスマホ無いと……家の電話はないし連絡が取れないのはまずい」  就業時間外に仕事に関する電話がかかってこないとは断言できず、社員の緊急連絡網にも書いてあるのは恭隆のスマートフォンの番号だ。上着とコートを羽織り、身支度を整える。 「じゃあ、先に寝ててくれ」 「え、でも体調悪いのに……」  ユーヤの言葉は聞こえず、恭隆はカバンを手に足早に玄関を後にした。自転車で走り去る姿があっという間に遠く見えた。 「どうしよう、ついて、いく……?」  ユーヤは預けられている鍵を握り締め、外に出る。しっかりと鍵を閉め、暗くなった星空に目を向けば、耳を澄ませ恭隆の気配を探す。自転車の走る音はいくつか聞こえ、バスの音が消し去っていく。 「もうちょっと静かなら……」  目を閉じ眉間のしわが深くなっていく。バス停をたどっていってもいいが、それだと時間がかかってしまう。

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