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7-14 休息の日、はじめてのことは心配(☆)

   恭隆が戻ってくれば、その手にはいつもの手錠と首輪があったが、その表情は少しだけ浮かないように思えた。 「どうしました?」 「あ、いや……改めて聞くけど、ユーヤは、こういうのは、大丈夫、だよな?」 「拘束、ですよね? 前にも言いましたけど、日常的なものではなく、限定的なので気にしていませんよ?」 「そうか……なら、いいんだ」  少し含みのある言いかたであったが、今日出かけた先で何かあったのかもしれない。それ以上の言及をすることを、ユーヤはやめておいた。 (あとで聞いてみよう……いまは、ヤスタカさんを癒すことに集中しなきゃ)  改めて恭隆がラウンジチェアへ座れば、ユーヤも膝を立てながら近づいていく。にじり寄ってくるユーヤに、恭隆の頬はだらしなく緩んでいる。ユーヤが恭隆の身体をなぞるように見ていけば、取りに行っている間にもいろいろな期待をしていたのだろうか、未だ膨らみは収まっていないようだ。 「今日は寒いから、服を着たままの方がいいね。それじゃあ……つけるよ」  恭隆に促されるまま、ユーヤはその身を任せたように、その細い首元を突き出し、さらした。首輪を持つ恭隆の骨ばった指がユーヤに近づき、じゃらりと鎖が音を立てる。段々と慣れていく手つきは、すぐにユーヤの首に輪をかける。次いで色白な肌をした手を取り、ボア付きの手枷をはめていく。前向きにつけられた手枷は、自身が拘束されていることを、ユーヤの視界にしっかりと映し出した。 「……今日は、前なんですね」 「そう、だね。……流石に最初から口付けるのは生理的に無理だと思うし、まずは手だなって思って」  手枷をつけた状態のユーヤに、恭隆はようやっとズボンと下着を降ろしてほしいと注文する。素直に伸びる指は、手枷がついている関係で両手を添えるようにズボンのウエストから引き下げていく。うまく力が入らず、ゆっくりと降ろされるズボンの下にある下着までは下げることは出来なかった。 「枷があると、難しいです……」 「そうだね。でも、そうやってもどかしそうにしている姿も、いいと思うんだ」 「……そう、なんですね」  恭隆の趣味は、ユーヤにとってまだ分からないところが多かった。けれど今は、恭隆が癒されているのなら問題は無かった。  下着越しにもはっきりと見える昂ぶりは、布越しではあるが外気に触れぴくりと反応を示した。まじまじと見ようとすれば、頭上から恭隆が咳払いをする。 「少し、はずかしいかな……」 「ヤスタカさん、いつも僕が恥ずかしいって言ってもやめてくれません」 「うっ……」  少しだけ優位に立てていることに嬉しくなったのか、ユーヤは心なしか楽しくなってきた。指先でつんとつつけば、また昂ぶりは震える。 「小悪魔め……」 「吸血鬼です」  恥ずかしさから、恭隆の口元は手で隠されている。その手にはユーヤにつけられた首輪から伸びる鎖が握られているのだが、この状況ではリードしているのはユーヤに他ならない。 「……降ろしますね」  そのままにしても楽しそうだったが、今回の目的のことを思い出し、ユーヤは下着に手をかける。下着を脱がし、窮屈そうにしていた恭隆の熱は大きく振れながらその全貌を見せつけてくる。数を見てきたわけではなかったが、少なくともユーヤのより大振りなそれは、血管が浮き出て雄々しく、生々しかった。先ほどまでつついて遊んでいたものとは思えない現物に、ユーヤは言葉を失う。 「……人よりは、大きいとは言われるけれど……」  未だに顔を覆っている恭隆から漏れる声に、比べようがないけれど大きいとは思ったとユーヤは答えた。 (テレビでは、咥えるって言ってたけれど、これを……?)  にわかには信じがたく、ユーヤの口で入るか疑問でしかなかった。まずはそっと触れてみると、汗で少ししっとりと濡れているのが分かる。ユーヤの肌が冷たかったからだろう、その刺激に熱は震え、恭隆の声も小さく漏れる。 「っ……ユーヤは、自慰はしたことあるかな」 「え、えっと……ない、です」  言葉と、大体のイメージでしかないそれは、ユーヤにとって遠い存在だった。特段吸血鬼は性欲が強い方ではなく、まだ青年期に入ったばかりだというユーヤには早い話題だと思っていたようだ。 「修行が始まった後に、気になるものだと思っていました。……でも、僕くらいの年齢の子でも、やったことある吸血鬼はいると思います」  あくまで個人差だとユーヤが答えると、恭隆の困ったような唸り声が聞こえる。 「それじゃあ、少しやり方を言っていた方がいいかな。それとも、試しにやってみる?」 「……やっちゃいけないことだけ、教えてください。イメージは、なんとなくわかります」 「わかった。……いきなり早く動かさないことと、強く握らないこと、かな。純粋に痛みを感じるから、ゆっくり上下に動かす感じだね」 「分かりました……」  ユーヤは両手で包み込むようにして、恭隆の熱を優しく握った。血が通い、どくどくと脈を打つのが感覚から伝わってくる。恭隆の様子を伺いながら、ユーヤはゆっくりと手を上下に動かしさすっていく。 「っ……そう、そんな感じ。上手だよ、ユーヤ。時々でいいから、先端の方を触ってみるとか、逆に根元に触れるとか、してみて」  言われるがままに、ユーヤは先端と根元を同時に触ろうとしたが、枷をつなぐ鎖が邪魔をして届かない。仕方なく両手を先端まで持っていき、両手の親指で撫でる様に触っていけば、頭上から漏れる恭隆の息が荒くなっていく。同じ箇所ばかりだと感覚が麻痺するかもしれないと、ユーヤはそっと、両手を下へ降ろしていく。根元から指を伝わせながら先端までをなぞる。そして手のひらで包むようそっと触れ、上下にさする。ユーヤの柔らかな手のひらの感触が、恭隆に久しく感じてなかった快楽を思い出させ、先端から薄く先走りが零れ落ちていく。 「ユーヤ、よく出来てるよ……」  恭隆の口から漏れる息に熱がこもり、無意識にユーヤの頭を撫でる。喜んでもらえていると感じたユーヤは、もっと喜んでもらおうと、膨張し始める恭隆の熱を柔く擦る。先端からこぼれ出る白濁はゆっくりと伝い、ユーヤの手に流れる。  最初はその一滴だけだったが、ユーヤの手際がよくなればなるほど、白濁は少量ながらも漏れ出してくる。 「……咥えても、いいですか? 牙には気をつけます」  ぐちぐちと水音が響く中、ユーヤの甘く誘う声が恭隆の理性を外していく。漏れ出る白濁はユーヤの手から枷に流れ、いま自身を慰めている手が、拘束されているものだという事実をありありと示している。そしてその相手は、自らの好みであり、愛しさを感じ始めた少年のものだということが、恭隆にとって麻薬のように思考を溶かしていく。 「いいよ、ユーヤ。舐めて」  ユーヤを撫でていた手を引っ込めて、動きやすいようにする。もちろん、首輪の鎖は恭隆が握っているし枷もついたままだった。  ユーヤはコクリと頷くと、小さく舌を出しちろりと舐める。苦味に近い、汗と白濁の味に顔をしかめる。一度離れ、触れるだけのキスを落とせば、吸血をするときのように口を開け外側を喰む。唇の肉を滑らせ、先端まで到達すると、恭隆の息が一層荒くなる。どうやら、うまくいっているようだとユーヤは内心喜んでいた。  続けて先端から咥えるように頬張るも、小さな口では半分も進まなかった。ユーヤは仕方なく、自分の限界のところまから先端までを往来することにした。牙を立てぬよう、慎重にゆっくりとしたペースで進めていると、頭上からは恭隆の熱のこもった声が頻繁に聞こえる。元より声が低いからか、上擦った声も低く落ち着いて聞こえる。  ユーヤは恭隆の声を楽しむように、味のことを忘れ根本から舐めあげる。要領が分かってきた、ユーヤは先端を吸い上げまた咥える。 「んぅっ……んっ、はぅ……」  自身から漏れる声にはユーヤは気づいていない。それを込みで恭隆は気持ちよくなっているのだが、懸命に恭隆の熱を頬張るユーヤは、少し周りが見えなくなっているようだ。 (あー、可愛いなぁ……)  時間も忘れ、恭隆は目の前のユーヤに集中している。天性とも言えるユーヤの舌使いに、恭隆の限界も近づく。  少しだけ鎖が引かれ、ユーヤの首輪がくんと引っ張られる。ちょうど口が離れていたので、牙を含め歯が当たることはなかった。 「……ヤス、タカさ、ん?」  何か間違いを犯したのだろうか、ユーヤの脳裏は不安がよぎる。 「そのまま、動かないで」  恭隆の声色は優しいが、指示されたことは何もするなということだ。至らなかったのかと眉が下がったユーヤに、鎖を持った恭隆の左手はユーヤの頭を撫でる。 「よくできていたよ、ユーヤ。……そろそろ、限界なんだ」  何がどう限界なのか、ユーヤが尋ねる前に恭隆はユーヤの拘束された両手を取り、自身の高ぶりにあてがう。少し荒々しく、ユーヤの手は恭隆の熱をさすっていく。困惑と共に、ユーヤはふと、一昨日の晩のことを思い出していた。理性が切れ、正気を失った件の吸血鬼が見せた、熱くぎらついた瞳と、今目の前にいる恭隆の瞳が酷似していたのだ。 (欲に、まみれた目だ……)  恭隆の目に視線を奪われていれば、ユーヤの手に何かがかかったようだ。集中できていなかったと肩を落とすが、手にかかったのは先ほどまで漏れ出ていた白濁で、勢い余ってユーヤの胸元のパジャマまでかかっていた。 「しばらく抜いてなかったからか……! ごめん、ユーヤ。替えのパジャマ用意するな」  テーブルの上に置いてあったウエットティッシュでユーヤの手と、汚れてしまったパジャマを拭き、自身のもティッシュであらかた拭いた後、恭隆は下着とズボンを履きなおした。 「あの、ヤスタカさん」 「ん?」 「……僕、不慣れで……その……集中、出来なくて」 「ユーヤが、どうしてそんなに不安になっているのかは分からないけれど。今日の夕飯づくりからずっと、俺はユーヤに癒されていたし、楽しかったよ。はじめてのことが、満足いくものになるなんてそうあるものじゃないしね。ユーヤが気にすることは無いよ」  ゆっくりと首輪などの拘束を解いていき、自由になったユーヤの身体を、恭隆はそっと抱き寄せる。恭隆の息が少しだけ荒く、熱がこもっている。広く鍛えられた胸にあてられた耳元から聞こえる心臓の音が、早く、大きく聞こえた。 (……僕も、早く大きくなりたいな)  テーブルに置かれた、祖父からのコートが視界の端に映る。ユーヤにとってそれは一人前の証であり、自分にはまだほど遠く、だからこそ前に進み続けなければならないと強く思った。

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