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④「尊い……フレイム……やばい」

 彼がフレイムのことを思い出したのは高校の入学式の日のことだった。黒川甲斐として生まれ、高校に入学し、同じクラスに正岡焔がいたからだ。  正岡焔はフレイムの正体。はて、フレイム?赤く燃え上がる炎の色のボディの、あの、フレイム?  何故忘れていたのだろう。あんなに好きだったフレイムを。あれ、それに自分は会社員だったはずなのに何故高校に入学しているのだろう。それに俺はこんな名前じゃなくて、こんな……黒川甲斐? 「俺、正岡焔。よろしくな」  イケメンが笑顔で声をかけて来ると共に、彼は自分がフレイムの親友ポジションでありながら、敵幹部のブラックナイトになる男だということに気がついたのだった。  推しを観察する上での特等席はどこだろうか。  大きな、画質最高のテレビの前?  舞台の最前列で目が合った時?  出待ちしてようやくめぐり逢った瞬間?  違う。  一番は敵対する悪の側から見ること。  二番は、親友として誰よりも近くで笑っている推しを見守ること。  彼はその両方を手に入れたのだ。 「ブリザード様にお願いして出勤させてもらって良かった……」  それからは、テレビで見たブラックナイトと同じように、エタニティに入り、厳しい修行にも耐えた。  上司は名前の通り冷たいけど、意外といい人で。それもこれもブラックナイトがきちんと実力をつけたからなのだが、やりがいを感じている。  それから一年。高校二年生になった春、ドラマが始まる頃、それが今日だった。  全てはフレイムを特等席で見るため。フレイムに関わるため。フレイムに関わる歯車になるため。 「尊い……フレイム……やばい」  全てはこの日のため。いや、この日から始まるドラマを体験するため。  正岡焔との友情もたしかに幸せだったが、やはり変身後のフレイムと直接絡める方がいい。 「あー、はやくまた会いたいなあ」  甲斐は盗撮した今日のフレイムの写真を眺めながら、恋する乙女のようにため息を吐いた。

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