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⑤「いるよ、すきなひと」
「元気無さそうだな」
次の日。甲斐は教室で沈んでいる焔に声をかけた。理由はわかりきっている。昨夜、ブラックナイトに歯が立たなかったからだ。少女を危険な目に遭わせたからだ。
確かにフレイムとブラックナイトの戦力の差は開きすぎている。だが、ブラックナイトはただの雑魚などではない。わらわら毎週出てくる敵とは違うのだ。そのくらいの差はないと困る。そのために修行をしてきたのだし。
そもそも少女を危険な目に遭わせたのはブラックナイトだし、フレイムは少女を守ることに成功している。フレイムファイヤーは正直かすり傷も負わせてこなかったけれど、ちゃんとブラックナイトは撃退されたのである。
ならば、落ち込むことはあるまい。
どうせ毎週敵が現れるし、倒していくうちに強くなる。そのうち鶴見博士も強い武器を作ってくれる。最終回までにはきちんとブラックナイトを倒せる強さまでレベルアップするはずだ。
そんなことを言って慰めてやりたいのだが、そういうわけにもいかない。
焔も焔で、正直にフレイムの話をするわけにもいかないのだから、同じかもしれない。
「んー、ちょっと夜更かししすぎて眠い」
そう言って欠伸する。
夜更かししたというよりは、悔しくて眠れなかったのだろう。
「ま、大丈夫。サンキューな」
陰りのある笑顔、イケメンがするとすごいなー。同性なのにドキドキしそうになる。
ただ、上手く慰めることができない自分が嫌になる。
たしかに黒川甲斐というキャラクターにしても、本当の彼にしても、人を慰めることは苦手だ。そういうのは、目の前のこの男の得意分野である。
だからこうやって、慰めるべき相手に慰められてしまったのだ。
「なあ、黒川」
「何だ」
「黒川って好きなやつとかいないの」
なんだ、急に。
いや、たしか焔は隣のクラスのマドンナ星野光に告白され、付き合うはずだった。その伏線だろうか。しかし少し早い。
甲斐が転生したせいで、流れが変わっているのだろうか?
「……いない」
「ふーん」
自分から聞いておいて、興味無さそうにされても困る。
が、やはり星野光絡みだろうか?
恋とはどんなものかしらということか?
「お前はどうなんだよ」
何故か真っ直ぐこちらを見られて、
「いるよ、すきなひと」
なんていうものだから、やっとのことで動揺を隠しながら「ふーん」と返すしかなかった。
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