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誕生日の話②12/25焔の場合そのいち

 正岡焔は生まれて初めて自身が正義のヒーローであることを呪った。  元々正義感は強い方だったけど、愛する人を守るために始めた仕事だ。それをきっかけに甲斐と恋人になれたのだから、感謝している。  だけど、せっかく大好きな人と恋人になれて初めてのクリスマスイヴ……そして、初めての誕生日ぐらいは、二人でゆっくりと過ごしたい。そう思ってもバチは当たらないだろう。  クリスマスイヴはダメだった。  甲斐の所属する悪の組織エタニティは休みだったのに、どういうわけか謎の怪人が現れた。  悲鳴を無視するわけにもいかず、倒しに行くと、どうも独り身の男がカップルたちを妬んで怪人になって暴れ回っていたらしい。倒した後によく話を聞いてみると、鶴見博士から怪人になれるアイテムを貰ったという事実が判明した。  ……あれ、あの人、正義の側の人間じゃなかったっけ? 「いやあ、僕は願いを叶えてあげただけだよ?つまりサンタクロースだよね」  などと、訳の分からない持論を振りかざす博士も、ちゃんと懲らしめておいた。  そんな風にクリスマスイヴが慌ただしく終わって、今日はクリスマス。そして、焔の誕生日だった。  昨日は台無しになってしまったが、まだ今日がある。また鶴見が悪さをしないように昨日から縄で縛り付けてあるので大丈夫なはずだ。 「……焔、どうした?」  険しい顔をしていた焔を、甲斐が不安そうに見つめてくる。そんな顔も可愛くて、やっぱり好きだなあと思う。 「ううん、昨日はごめん。せっかく約束してたのに」 「仕事なら仕方ないって。今日は大丈夫そうだし」 「……まあ、原因は捕まえたからね」 「?」  甲斐にはまさか真犯人は正義側の博士でしたなんて言えるわけもなく。 「……俺以外の奴と戦うのは正直妬けるけど、一般人の目線で焔が正義の味方してるのを見れるのは悪くないな」  ……冒頭で言ったことは無かったことにしよう。  正岡焔は、正義の味方であることを神に感謝した。  甲斐が照れながらもそんなことを言ってくれるのだから、もう、焔は昨日のことなんて一瞬で忘れてしまった。クリスマスイヴなんてただの『前日』だ。大事なのは今日だし、自分たちはキリスト教でも何でもない。  どんな日であれ、大事な恋人と過ごせれば、特別な日なのだ。 「で、まずは誕生日プレゼントなんですけど」 「あ、はい」 「左手、出して」  緊張している様子の甲斐につられて、焔の方も緊張してしまう。言われるままに左手を甲斐の前に出すと、そっと薬指に触れられる。 「……受け取って、くれますか」  真剣にこちらを見つめてくる甲斐に、もちろんと頷く。  シンプルな指輪が左手に贈られる。 「ありがとう、甲斐」  お返しに、もう片方の指輪は焔が甲斐の指にはめる。それから、焔と揃いのそれに、そっと唇で触れた。 「この指輪に、誓います――ずっと一緒にいよう」 「……俺も、誓う」  真っ赤になった甲斐が、焔の手を取って、真似をしてくる。人にされて気づくのだが、キザだっただろうか。少し恥ずかしくなってくる。 「誕生日おめでとう、焔」  来年も再来年もずっと、こんな風に一緒に過ごせますように。

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