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それが二人の初デートの話だった※
前世で大好きだった『炎の戦士フレイム』だが、やはり甲斐が好きだったのは特に変身後のフレイムだった。中身の正岡焔ももちろん若手イケメン俳優が演じており、まあカッコイイのだが、それ以上に変身後だ。熱いバトル。必殺技。魂を震わせるような名台詞もどうしたって変身後の方が多い。
だから、今も『推し』と言って思い浮かべるのは変身後のフレイムのことだったのだが……最近、焔と付き合うようになってから、変わり始めた。
(やばい、俺の彼氏……カッコイイ)
デートしようと言い出したのは焔の方だった。親友期間に一緒に出かけたりはしたことがあったが、付き合い始めてからの……デートは初めてだった。
これまで親友として接している時は慣れていて麻痺していたが、改めて甲斐の彼氏で、好きな相手と思うと、直視することが難しい。焔の方は嬉しそうにニコニコしながらこちらを真っ直ぐ見つめてくるのだから、眩しくて仕方がない。
顔が整いすぎている。カッコイイ。これが自分の所有物だと思うとどうしていいかわからない。いや、焔は物では無いのだけど。
何度目になるかわからない、喉元までせり上がりかけた「好き」という言葉を飲み込む。好き。そうだ、好きだ。まだ自覚して日の浅い感情は油断するとすぐ溢れ出しそうになる。甲斐はそれが恥ずかしいからだいたい飲み込んで、外には出さないようにしていた。
「映画、面白かったな」
焔がそう話しかけてくるので、頷く。
誘われて一緒に観た映画は甲斐の好きな特撮ヒーローの映画で、たしかに面白かったのだが、それよりも隣に座る焔のことが気になって集中できなかった。フレイムの次くらいに好きな話なのに。
映画の感想を話しながらラーメンを食べて、ぶらぶらと歩く。服でも買おうかと店に入ろうとする焔について行きかけて、ピタリと足が止まる。
「何、甲斐……あ、これか」
焔が入ろうとした店の隣に、フレイムのブロマイドが並んでいたのだ。これは甲斐も持っていない種類で、めちゃくちゃカッコイイ。興奮して鼻息が荒くなりそうになるのをぐっと堪えて、焔に聞く。
「……買っていい?」
いや、本物が隣にいるんだけど。でもただ自分が写真を撮るのとこういうブロマイドを買うのはまた違うことだと思うのだ。商品として売るのだからちゃんと画質も良ければカッコ良さを意識しているし、色々な種類があってコレクター心を刺激してくる。
「いいよ」
焔が呆れながらも頷いてくれる。呆れた顔もカッコよくて、この店に正岡焔のブロマイドは置いていないのだろうかと思わず探してしまった。勿論あるはずがない。
何故かブラックナイトやブリザード、鶴見博士のブロマイドなら見つかった。これは要らないなあ。
そう思っていたのに、焔がブラックナイトのブロマイドを買ったのを見てしまった。
服屋を見て、またぶらぶら歩いて、焔が「この後どうする?」と聞いてきたが、上手く返事ができなかった。
何で、焔はブラックナイトのブロマイドなんて買ったんだろう。本物の甲斐が隣にいるのに。
すっかり自分のことは棚に上げて、焔は黒川甲斐とブラックナイト、どちらが好きなのだろうと考えてしまう。
「甲斐、聞いてる?」
「わっ」
気がつくと焔の顔が目の前にあって、思わず悲鳴を上げて後ずさる。心臓に悪い。
「き、聞いてる」
「この後どうする?そろそろ休憩する?」
「きゅ、休憩?」
休憩ってアレか。恋人同士の休憩といえばやはりアレなのか。二時間だか三時間いくらとかいうアレなのか。
思わず買い込んだブロマイドをぎゅうっと抱きしめる。は、恥ずかしくて隠れたい。
こうしてちゃんと両思いになる前に散々したというのに、いざ両思いになってからするセックスというのは物凄く恥ずかしい。
「甲斐、俺とフレイムどっちが大事なの」
「へ」
「ごめん……今の無し」
焔が珍しく顔を赤くしている。もしかしてフレイムに嫉妬しているのだろうか。
だから、焔の質問に答える代わりにこう聞いた。
「俺とブラックナイトどっちが好き?」
焔の言う休憩はそういう意味ではなかったらしいのだが、結果的に二人はラブホテルに入っていた。いつもお互いの部屋でしてばかりだったので妙に緊張する。だってここにいるってことは、そういうことをするってことなわけで。
シャワーを浴びる間も無くふかふかの広いベッドに押し倒されて、下から見上げる焔の余裕のない表情もまたカッコよかった。
「……すき」
「え」
「な、なんでもない!」
思っていたことが口から出ていた。ダメだ、フレイムだけじゃなくて焔のことを好きになりすぎた。気がつけばフレイムよりずっと正岡焔のことを推しているような気がする。
「俺も、好き」
焔がそう言って、甲斐の唇に触れてくる。触れるだけのキスなのに幸福感に満たされる。好き。そうだ、好きだ。
キスは次第に深く、焔の舌が口内に入り込んでくる。最初にした頃よりずっと甘く感じる。
「んっ……ふぅっ」
夢中で舌を絡めていると、腕に冷たいものが触れ、金属の音がガチャンと響いた。
……あれ?
腕に違和感があって見てみると手錠で拘束されていた。
「ほ、焔?」
「ごめん、でもデート中にフレイムに目移りしたからお仕置しないと」
すまなそうに言われるけど、だったらお前もブラックナイトに目移りしただろうと言い返すが、何故か「甲斐が嫉妬してくれるなんて」と喜ばれるだけに終わった。解せない。
手錠をベッドに繋がれて、両思いになってもこういう目に遭うのかと泣きたくなる。
「あっ…………やだ、ほむらぁ」
やだ、と言いながらも体の熱が上がっていく。ペニスが焔にされることを期待して勃起しそうになるが、そこにリングを嵌められる。
「ひっ」
「今日は出さずにイこうね」
何でこんな物を持ち歩いていたのだろうか。
焔と付き合うことにしたのを、少しだけ後悔した。もちろんほんの少しだけではあるけど。
「あ……っ……ご、ごめんなさい…………やだっ、ごめんなさいっ」
「うん、ちゃんとわかった?」
「焔の方が好きっ……だから、お願い……焔の入れて……」
ペニスはリングでイけないようにされて、ひたすら中を慣らされた。もうとっくに三本の指が自由に動くくらいに蕩けているのに、どうしてかいつまで経っても挿入してこない。
腕はベッドに繋がれているから自分でリングを外すことも、ペニスを扱くことも出来ない。生殺しのような状態でずっと中を弄られて、何に謝ってるかもわからずに謝り続ける。
腰を揺らしながら焔のペニスを強請ると、ゴクリと唾を飲み込む音がした。
「いいよ、入れるね」
「あぁあああっ!やっ、とって、とってぇっ」
待ち望んでいたものが挿入されるが、リングは外して貰えない。焔のペニスが中に入ってくるだけで気持ちよくて達してしまいたいのに、リングが邪魔で射精することができない。
射精できなくて苦しいはずなのに、体が勝手にビクビクと跳ねる。
「あっ、……やっ、なんで…………うううっ」
リングで戒められているせいでペニスからは何も出ていない。なのに体の中を駆け巡る快楽は、射精した時のそれに似ている。
吐き出せない熱がいつまでも体の中で暴走して、終わりがない。
「ちゃんと出さずにイケたみたいだね」
「ひうっ……やっ、まだ動かないで」
まだイキ続けているのに、焔が動き始める。体内をペニスが行き来して、悪戯に前立腺を抉る。イケないのに、またビクビクと体が震える。
「すごい、中がうねってる」
「あっあっ……だめ、ほむらぁ……とまって、だめっ」
「じゃあ俺が好きっていっぱい言って。そしたらちゃんと射精させてあげる」
「言う、言うからぁっ……あっ、ほむらが、好き…………すきっ、すき」
「フレイムより?」
「焔が一番好き……あっ、んんんっ……焔のでイキたいっ」
「うん、いいよ」
いいよ、という言葉と共に、リングが外される。同時に先端からとろとろと精液が溢れ始める。垂れ流しているみたいで恥ずかしい。
「ほむら、キス、したい……ぎゅってしたい」
快楽に蕩けた頭では何を言ってるかわからなくて、そんな甘えたことを言ってしまう。焔はビックリしたような顔をするが、甲斐の手錠を外してくれた。
そうして自由になった腕で焔に抱きつき、キスを強請る。
「ん……ほむら、すき…………キスも、すき」
「可愛すぎ……こんなの誰にも見せたくないなあ」
そう言って焔がため息を吐く。呆れられてしまったのだろうか。どうしよう、焔に嫌われたら、どうしたらいいかわからない。
「今度余所見したら監禁するからね、わかってる?」
「うん、うん……」
何を言われてるかわからないけれど、笑顔で頭を撫でられると幸せな気持ちになって頷く。
それが二人の初デートの話だった。
おまけ
「それで、可愛い甲斐の写真が出回るなんて耐えられないので買い占めした」
「わお、独占欲やばーい。私もブラックナイトのブロマイド欲しいんだけど」
「同担拒否」
「はいはい。わかってましたよ」
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